ホップステップ、トス!
◆ ◆ ◆
町に降り立った私達は、ゾンビ達に遭遇しないように注意深く進んで行く。それでも倒さないと通過出来ない場所では、弓で狙撃して進んだ。
先頭を行く私は、湿った壁に背中を当て通りをこっそりと覗き見る。道を力無くフラフラと歩くゾンビ達、そしてその先に見える建物付近が、布がヒラヒラと舞い消えた場所だ。
建物に取り付けられた看板には、図書館と書かれていた。
取り敢えずこちらに向かい歩いていたゾンビを射止めると、続けて残りのゾンビ達も狙い射った。
さてとーー。
「やはりあの建物が怪しいから潜入しようと思うんだけど、誰か行きたい人いる? 」
本当は私と近接戦に対応出来るドリルが建物内を調べ、トロ達には外の見張りをお願いするのがベストなんだけど……。
トロはなんだかんだでこういう探索や冒険が大好きである。よく後であーだこーだ言うことがあるので、念のため聞いてみたけどーー。
「もちろん私とお姉様が行く!」
やっぱりそう言うか。
結局私とドリルが、トロ達が挟み撃ちに合わないように退路を確保する事に。
「生存者がいたら取り敢えず連れて来て、それと立て籠もれそうな部屋とかのチェックも頼むわよ」
「もー、わかってますって。じゃ、行ってくるね」
手を振り図書館への扉へと進む二人。
そして観音開きの大きな扉の片方に手を掛けるトロ。
ん、なんか音がする。
「トロ! 」
「ん? 」
無用心に扉を開けようとするトロであったが、突然扉が勝手に開いた。
「クシャー」
「ひゃっ! 」
飛び出してきたゾンビに掴まれるトロ、そしてそのまま押し倒された。
そのままトロの首筋に噛みつこうとするゾンビであったが、蜘蛛が一瞬にして番え放った光の矢が、ゾンビの頭に突き刺さる。
垂れてくる鮮血で、トロの顔は真っ赤である。
「トロ、大丈夫? なんだったら代わろうか? 」
「だ、だだだ大丈夫です。ま、任せて下さい! 」
しかしトロの声は上擦っていた。
ま、蜘蛛がいるしなんだかんだで土壇場に強いトロだから、任せても良いかな。
そんなトロ達を見送った私達は、どこからともなく聞こえるゾンビ達の不気味な声に、息を潜めて警戒していた。
しかしここは落ち着かないわね。建物周辺や町並み、瓦礫や塀の辺りをしきりに見回していると、ドリルに声をかけられる。
「なにか、探しものですか? 」
そして、なにか手伝えることがあれば教えて下さい、と続けるドリル。
「そうね〜、ゾンビが現れても先手を打てるように、ちょっと見渡せる上の方に移動したいんだけど、どこか登れる場所がないかな~と」
ドリルには視線を合わせず、キョロキョロしながら話しているとーー。
「でしたらボクが、上に行くお手伝いをしましょうか? 」
ドリルはこちらを向き片膝をつくと、手の平を上に向け合わせて構える。
「なるほど、上に飛ばしてくれるってわけね。じゃ、さっそく行くわよ! 」
「はいっ! 」
助走をつけるため一度ドリルとの距離をとると、いつでもどうぞ、と言うドリルの言葉を合図に、私は走り出した。そして勢いそのままドリルに片足を伸ばす。
「だー! 」
私の足の裏を上手くキャッチしたドリルは、全力でそのまま上にトスをしてくれた。
そして、凄い勢いで流れる景色。
「ヒヤァアァ~」
思っていた以上のスピード、塀の上に行く予定が一瞬で通り過ぎ、次に迫るは民家の屋根。
ぶつかる!
でもそこで勢いを消さないと、落ちる!
大の字で屋根に打ち付けられた私は、濡れていた屋根とあまりの勢いのためズリッと滑ったが、頑張って手足を広げなんとかその場に踏ん張った。
「あ、危なかった」
そしてよく頑張った、私!
下からはドリルの謝る声が聞こえてくる。
わ、悪気はないのよね。
ドリルに向かい片手を挙げ大丈夫だという事を伝えると、涙目を擦りながら辺りを見回した。ゾンビは近くにはあんまりいないみたいだ。
時折顔を出す月明かりのみでよく見えないが、町の入り口のほうにはゾンビの大群がいるのが見える。
うわ〜、なんであんなに集まっちゃってるわけ? もしかしてまだ私達を捜してるとか?
そして少し離れた墓地に、違和感を感じた気がして注意深く見てみる。
……あの赤い鎧って、もしかしてイールの騎士! と言う事は、レギザの援軍が到着してたんだ!
そしてあの対峙するようにして立っているのは、……何、あれ?
全身からドス黒いオーラを放つ、黒い鎧を纏う騎士がいた。
もしかしてあいつが、アゼツさん達が遭遇したと言う、黒騎士!
立ち並ぶ墓石で二人は距離をとりさっきから対峙しているけど、どうやら会話をしているっぽい。
耳を澄ますと、遠すぎたけど少しだけ聞き取れ始めた。




