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格好良くない手

 さて、待っている間、ボケーとしているのもなんだしな。

 博士君を見やれば、無残なありさまの死体の片付け始めていた。そこで木製の担架の上に置かれていた手袋をすると博士君の隣へと並び、声をかける。


「手伝うよ」

「えっ、シグナさんいいですよ! 一人で出来ますので」

「二人のほうがはかどるだろ? 」

「あっ、ありがとうございます」


 壁にめり込んでいる肉片を、ビリビリと剥がしては広げた布の上へと運んでいく。

 しかし酷いな。人をここまで押し潰すには、巨大なハンマーで叩きつけなければこうはならないだろう。

 犯人が何かしらの魔法を使用していないのであれば、とんでもない怪力の持ち主という事になる。

 そしてもう一点、遺体の腹部と右腕はどこにいった?このまま近くに散らばった残りの肉片をかき集めたとしても、人一人の質量には到底足りない。

 ストームが何かしらの儀式用に持ち帰ったか、やはり野犬にでも食べられたのか?

 駄目だ、全てが憶測の域を出ない。いっそ何か手がかりが落ちていれば話が早いのだが。

 念のため調べてみるが、手掛かりになりそうな物は見当たらなかった。


 やはり鑑識魔法が必要だな。

 あれを使用すれば、現場や遺体に魔力が残留しているかどうかが分かり、仮に魔力が残っていればそこから追跡が出来る可能性も出てくる。

 そのためにも魔力が色濃く残っている早い段階で、そして死体は動かさないままで鑑識魔法で調べるのが一番なのだが、捜査のためとはいえこの血や肉がこぶり付いた壁等をそのままにしておくと、いつ土地の所有者が難癖つけにくるか分からないため、いつまでもこのままにしておく訳にもいかない。

 とにかくシャルル達が戻ってくるまでには、粗方片付けておこう。


 それから時間は流れ、いつでも場所を明け渡せる状態になってからさらに三十分程経過した辺りで、シャルルとユアンの二人が戻って来た。

 二人の他には誰も見当たらない。


「ごめん、神はこの世にいなかった」


 ガックリとうなだれるシャルルに、イライラした面持ちのユアン。


「どう言う事なんだ? 」


 質問にシャルルは頬をかきながら苦笑いをあげた。


「実はーー」


 結局のところ、ユアンが持ち込んだ手配依頼申請書が受理されなかったのだ。

 原因はシャルルが苦手とする、役所に務める一人の元レギザイール兵にあった。

 なんでも、書類を出すと後で目を通すと言われ、ユアンが至急頼めないかとお願いすると、これでもかとヤーヤー言い出したのだ。


「なんだと、俺は暇じゃないんだぞ。少ない給料でなんで俺がそこまでしないといけないんだ? お前がやれ! 」


 こんな風に。

 そこでユアンが尋ねる。


「それではやり方を教えて頂けないですか? 」


 すると男は目を剥き怒鳴り始めた。


「そんな事も分からないのか? お前はこの仕事を舐めているだろ? あーもう無理無理。お前はどこの隊所属だ? 俺が代わりに言っておいてやるから今すぐ軍を辞めろ! 」

「いえ、決して舐めてなど……」

「舐めているだろうが! ふざけんな! 」


 このようなやりとりが何度か続いたあと、見兼ねたシャルルがユアンに声をかける。


「ユアンさん、行きましょう」


 シャルルは悔しそうな表情を浮かべるユアンの手を取り、無理矢理外へと連れ出したそうだ。


 結局これ以上時間が経てば鑑識魔法も期待出来なくなるため、遺体は焼却する事で決定した。

 これで捜査は振り出しに戻ったわけだ。

 しかし鑑識魔法が使えない事と役所との関係がこのままだというのはその後も迷惑被るので、このままにはしておけない。という事で一つ手を打つとするか。


 シャルルはシグナのために命までかけ頑張ってくれた。シグナも彼女に対して出来うる限りの事をしようと思う。

 因みに今からしようと考えている手は、あまり乗り気がしない、ある意味格好が悪いため今まで一度も使った事がない禁じ手である。

 ただしこの手の相手には効果抜群で確実な手。

 その手とは、クラスは連隊長でありながら師団長より権限を持つ事を許され、レギザイール軍で特務任務を請け負うただ一人の男。庶民からは勇者様と親しみを持って呼ばれ、軍で孤立しそうになっていたシグナを、特務部隊の隊員として迎え入れてくれたタフガイ。


 勇者カザンの手を借りる事である。


 実際には相手をビビらせるために名を借りようと思っているのだが、事情を説明すれば一緒について来そうな予感がする。こんな些細なことで迷惑はかけれないので、そこは上手く断らないといけない。


 そう思い立ったシグナは、シャルルに所用を思い出したので少し別行動をすると伝え、夕刻に昨晩の酒場で落ち合う事を約束し後この場を後にした。

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