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寄生ムカデ?

「ミケ姉! その人ってもしかして、ゾンビ、だったりするの? 」


 トロが悲鳴のように上擦った声を出しながら、恐る恐る私達の方へと近寄ると、私の斜め後方45度の位置で脚を止める。

 しかしゾンビか〜。これがそのゾンビならば、今回初めてお目にかかる訳になるのだけど。

 大陸を南北に分断するようにして走る『別れの山脈』の人間が住んでいない側の地域、北の大陸の方には寄生ムカデなんて言う奴が生息しているらしい。別名電気ムカデと呼ばれる奴等は、人に限らず向こう側に住む生物の死体の中に潜り込むと操り、ごく稀に山脈を越えてこちら側に来る事が大昔にあったらしい。そのため別れの山脈に隣接する国々は、山脈に駐留する部隊を配置するようにと、何百年も前に各国の話し合いで決まっている。

 また別れの山脈寄りの町では、昔の教訓を活かして土葬は禁止されており、今でも火葬をする所が殆どである。

 それで今回、この頭と体が離れた男性が寄生ムカデ達に操られていたとすると、死後硬直が解けた死体を操られていたわけになるんだけど。……あれ? それだと死体から吹き出す程の血が出るのって、おかしくない?

 屈んでもう一度横たわる男性の体を見てみるが、傷口からムカデらしき姿も見あたらない。

 どゆこと?

 とそこに、一人で草むらに入っていっていた蜘蛛が戻ってきた。そしてーー。


「まだ……動いてる」


 蜘蛛はそう言うと、背中に隠し持ってきていた男性の頭を自慢げに見せつけた。男性の顎は今もなおカクカクと動き、あろうことか私の方をジッと見ている!

 蜘蛛を除く、三人の悲鳴が木霊したのは言うまでもない。

 しかし謎が深まった。あれから男性の体を何箇所か切り裂いてみたが、寄生ムカデらしき奴はやっぱり出てこなかった。それに寄生ムカデなら、例え頭が無くても、体だけでも操ってしまうらしいのだが、動いているのは頭だけである。そしてその頭のほうなのだが、蜘蛛が咄嗟に茂みに投げてしまったため調べる事が出来なかった。

どうやら蜘蛛は、あの動く頭が痛く気に入ったらしく、後でコッソリ回収しようと言う魂胆だったようなのだが、トロの泣きながらの抗議により、流石の蜘蛛も諦めたようだ。

 しかしこの後、先程の件といい、蜘蛛は皆からみっちりと説教を受けるのであった。

 はぁ〜。しかしさっきの生首、普通に生きている人とも突然あんな間近で見つめあったらビックリするって〜のに、……なんだか夢に見そうである。


 そしてパラパラと降り出してきた雨の中、私達はバラガの町へと訪れるのであった。


「ミケ様、人……いないですね」

「雨も降って時間も時間だから、皆家に帰っちゃったのかな〜? 」


 いや、おかしい! 先程の男性の件もあるし、どう見てもおかしい!

 問い掛けたドリルに対し、お姉さんぶって接してみたけど、どう見ても普通ではない町の雰囲気に、心臓がバクバクしています!


「でも、明かりもついてないですよ? 」


 トロが恐る恐る明かりの点いていない民家の窓を、誰かいないかと凝視している。

 確かにトロの視線の先にある民家だけでなく、離れたその先にある家々も全て明かりが点いていない。


「あっ、空き家じゃないのかな? 」


 そう言いながら、私から乾いた笑いが漏れるようになっていた。

 そして雨足が強くなってきた事もあり、私達は一先ず雨宿りをするためにその二階建ての民家にお邪魔する事にした。小走りで玄関先まで行くとドアには鍵がかかっておらず、すんなり入れたのは良かったが家の中はやっぱり真っ暗闇である。そこで五感をフル活動させて探ってみるが、何も感じない、から大丈夫かな? 一応誰かいないか声をかけてみるが、返事も無かった。


「火の精霊よ、恵みの炎を我に与えよ」


 私は左手の親指と人差し指を擦りながら簡単な炎の魔法を唱えると、その指先に小さな炎を灯す。それを玄関に設置されていた手ランプに移すため、硝子の小窓を上にスライドさせ炎を芯に移した。

 真っ暗だった玄関は、その灯りで暖かさを得る。

私はその手ランプを持つと、思い切って一番近くの部屋の中を照らしてみた、がやはり誰もいないようだ。

 私はもう一つあった手ランプにも炎を分けると、それをドリルに手渡した。

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