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町人A

 ◆ ◆ ◆



 バラガイールの街を出発してから三時間、私達は森の中の樹々を避けるようにして整備された街道を進んでいた。

バラガの町は小高い山の麓にあるのだが、その山が近づくにつれて空は暗雲に覆われていき、そのためまだ陽が落ちる時刻ではなかったのだが辺りは早くも薄暗くなり始めていた。

 そして何処からか、カァーカァーと一角黒鳥いっかくからす達の鳴き声が聞こえてくる。彼等は警戒心が強く主に森に生息しているのだが、雑食で死肉を漁る事もあるため、旅人の中には彼等を不吉の象徴として嫌う者も少なくない。

 ん、いま雲に覆われた空が一瞬だけ光った。雷のようだけど、音が聴こえてこないため、かなり遠くに落ちたようである。

 しかしーー。


「なんかいかにも、ってな雰囲気出てるよね」

「ちょっ、ミケ姉」


 怖いものが苦手なトロは辺りを見回しながら身震いをすると、隣を歩く蜘蛛の裾をそっと掴んだ。

 それから蛇行する道が直線に変わる所まで進んだ一行は、その直線、森が途切れた先に町の外壁と半開きの通用門が見えるのを確認した。

ふ〜、完全に暗くなる前に到着出来そうね。よかった、よかったーーん?


「あの人、どうしたのかな?」


 丁度森が切れた辺りの道の端に、どこか力なく俯き、先程からその場を動かず立ち尽くしている町人風の男性がいた。


「こんな所でどうされたのですかね? 」


 ドリルが私と背中を向け立つ男性を交互に見ながら、心配そうに話し掛けてくる。


「気分でも悪いのかも」


 私はそう答えると、ドリルを引き連れ男性に近づいていく。因みにトロは蜘蛛の後ろに隠れ、動こうとしていない。


「大丈夫ですか~?」


 私は気さくに話し掛けてみたが、男性は時折左右に身体を揺らすだけで返事をしない。そんな男性を不審に思いながらも、背後から肩をポンポンと叩き、背中越しに顔色を覗き込もうとした。するとーー。


『シィャァァー!』


 突然男性は振り返り、こちらに向け奇声をあげた。


「はわわぁっ」


 ビックリした! 身体が地表から離れそうなぐらい、大きく大きく心臓が一回鳴った。そして鼓動が小刻みに早鐘を打つ中、気が付くとその場にへたり込んでしまっていた。

 完全にこちらに身体を向けた男性の顔には大きな火傷みたいな跡があり、白目をむいたまま口を大きく開くと私に覆い被さろうとしている。

 しまった、腰のナイフで応戦しないと! 咄嗟に手で腰のナイフを掴んだ時、頼もしくも力強い声がすぐ近くで上がる。


「くらえ!」


 その声の主ドリルは、腰を落とした力ある右ストレートを男性の鳩尾に決めた。男性は吹き飛び地面に一度も触れる事なく樹の一本に激突する。


「あぁ、やり過ぎてしまいました! 」


 ドリルもビックリしすぎて、力の加減を誤ってしまったようである。


「なっ、なに今の!? 」


 トロは蜘蛛の後ろからガタガタと震えながら、樹にもたれ掛かって動かない男性を凝視している。


「ミケ様、大丈夫ですか?」

「あたたっ、腰が抜けたかと思った」


 ドリルが手を差し伸べてくれたので手を握り返すと、ゆっくりと引き起こしてくれる。


「ミッ、ミケ姉! 後ろ後ろ! 」


 トロが私達の後方を指差しながら悲鳴をあげた。そして『ウゥゥー』と唸り声。

 振り返ると、樹木に叩きつけられていた男性が立ち上がっており、フラフラと覚束無い足取りでこちらへと近づいてきている。


「少しだけ眠って貰います!」


 ドリルが目にも止まらない早さで間合いを詰めた。男性は掴みかかろうと両手を正面に伸ばす、しかしそれは徒労に終わる。


「はっ!」

『ゴキッ!』


 すれ違いざまに放ったドリルの右フックが男性のアゴを正確に捉え、頭が時計回りに一回転して正面を向く。

 また加減しそこねた!? と言うかドリル、命取っちゃったよ!

 しかし男性は死んでいなかった。首が変な風に傾いているが、動きを止めずに足を動かし距離を詰めて来ている。


『シュッ!』


 蜘蛛が放った矢が、風を切る音と共に正確に男性の心臓を捉えた。しかし男は一瞬体勢を崩すのみで、それでも止まらない。そして両手を上げながら私に襲いかかろうとする。


「どりゃー!」


 ドリルの高速ストレートが男の頭を正確に捉えた。あまりの威力に体からちぎれて草むらに転がって行った男性の頭がまたしても樹木に当たり止まる。そして残された体の方は、噴水のように血を真上に吹き出すと、その場に崩れ落ち動かなくなった。

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