伝令
私の両目を見据えながら、ジリウスさんは話を続けます。
「君はバレヘル連合の隊長職と言う立場にいる。そして奴、イールの騎士と言えば一般兵でありながら、師団長と同じ発言力を与えられた特別な奴って事は、パラディン君も知ってるだろう? 君はさっき、そんな奴に喧嘩を売ろうとしていたんだ」
しかし……いえ、確かに感情的になってしまっていました。
「……軽率でした」
「だがパラディン君が弱い者、困っている者にも手を差し伸べる人間だからこそ、皆が慕っているのも事実だ。ようするにだ、君が正しいと判断して行動するときは、我々も腹を括る覚悟だから、……その事だけは忘れないでくれ」
そう言うと、ジリウスさんは私の肩を力強く叩きました。
「先程の件は、私が意地になりすぎていました。……頭に血が上るのは、私の悪い癖ですね。反省と共に、助言と忠言に感謝致します」
私はその場に立つと、ジリウスさん達に向かって、深々と頭を下げました。
『バダンッ!』
激しい音をたて、入り口から一人のレギザイール兵が飛び込んできました。その兵士は、イールの騎士達が座る奥のテーブルまで駆けて行くと、落ち着かない様子で立ったまま、ここからでは聞こえませんがどうやら報告を行っているようです。報告が終わると、テーブルに座る兵士の一人が装飾の施された木箱から水晶を取り出し、その水晶を使い通信を始めているようです。
「何かあったのか? あっお姉ちゃん、あとビールニつ追加で」
注文を済ましたガオウさんが、テーブルに広がる料理を片っ端から食べていきます。
「あっ、それは俺の分っすよ! 」
「マリモン、今この場は戦場、弱肉強食だぜ? 」
「……負けないっす!」
それから二人が猛烈な勢いで食事を平らげっていっていると、『ガタガタガタッ』っと店内に音が響きました。
どうやら店を訪れていたレギザイール兵達が一斉に席を立った事により、木製の椅子と床が当たる音が店内にしたようです。そして六名の兵士達は皆店内を出入り口に向かって早足で進むと、そのまま続々と店を後にしていきます。
「なんだなんだ!? 」
その光景を目の当たりにした店のお客さん達が、一斉にざわめき出します。
「隊長、なにかあったみたいですね」
「たしかに、先程の飛び込んできた兵士といい、ただ事ではなさそうですね」
その時一番最後で店内を出ようとしていたウィンベルが、脚を止めこちらに駆け寄ってくると、私の耳元で囁くように話し出します。
「バラガに派遣されていた奴らからの定期連絡が途絶え、こちらからの呼びかけにも応じない。もしかしたら何者かの襲撃を受けているかもしれない」
「なんですって!? 」
「シッ、……それでまず確認をしに俺と隊長が先行して行く事になったんだが、ここで手柄を挙げれば、……今なら握手をしてやってもいいぜ! 」
手を差し伸べるウィンベルは、口の端を上げ嬉しそうです。
「そうそう、まだ未確認情報だし、混乱したらしたで困るから、この事は他の奴には絶対言うなよな」
ウィンベルは険しい表情を無理やり作りそう言うと、他のレギザイール兵の後を追って足早に酒場を出て行きました。
しかしバラガはーー。
「隊長、たしかバラガって言ったらミケ姉達が……」
「えぇ、ミケさん達が届け物で向かった町ですね」
俯き加減で腕組みをしていたガオウさんが口を開きます。
「もし本当に町が襲撃を受けていた場合、何も知らずに訪れるのは、かなり最悪だな」
「はい。……今の時刻だと既に到着しているでしょうが、水晶で連絡をしてみましょう」
しかし何度試しても、水晶にミケさんの姿は出てきませんでした。
胸騒ぎがします。
「パラディン君! 」
「えぇ、私達もすぐに向かいましょう! 」
テーブルに代金を置き店を出ると、夜道の中、私達も暗雲立ち込めるバラガの町へと向かうのでありました。




