いい人間とは?
大男から足を退けたイールの騎士が、その体をすっと私の方へと向けます。
すると背丈は変わらないはずなのですが、その鋭い眼光と共に放たれる威圧感のせいか、イールの騎士の身体が私より頭一つ分大きく感じ、それと共に周りの空気が一瞬にして凍りついたような錯覚に落ち入ります。
「なんだね君は?」
丁寧な言葉使いですが、優しさは一切感じられません。
「私は、あなたの容赦ない仕打ちに異議を唱える者です!」
「バッ、バカ!」
そこで私とイールの騎士の間に、ウィンベルが強引に割って入ってきました。
「こいつは昔から世間知らずで! ほらっ、お前も謝んだよ! 」
ウィンベルに無理やり頭を押さえつけられたため、頭を下げる形になります。私は反射的に頭を上げようとしましたが、ウィンベルはかなり力を込めているようでビクともしません。
そんな私達の様子を、イールの騎士はただじっと無言で見据えています。
「……白けたな。店主、壊れたテーブル代は俺達に付けとけ」
「は、はい」
遠巻きで事の成り行きを見守っていたお店の人にそう言うと、イールの騎士は一人奥に見える席へと帰っていきます。
……いえ、このまま帰してはいけません。どう見ても彼がした事はやりすぎです。
「まだ私の話はーー」
「バカ! お前はうちの隊長にケンカ売って、ただで済むとでも思ってるのか!? 」
「私が負ける時は、自身の意思を曲げた時。例え力で勝てなくてもーー」
「あーとにかく、お前は命拾いしたんだ! 感謝ぐらいしろよな! 」
そう吐き捨てると、ウィンベルは急いでイールの騎士を追いかけて、店の奥へと消えて行きました。
それを機に、店内は先程の賑わいを取り戻していきます。私は大男の下に行き屈むと、彼の脚に折れたテーブルの足部分を当て包帯で固定していきます。
「あのウィンベルって人、癖はありそうっすけど、根はイー人っぽいっすね」
誰にともなく言ったマリモンの呟きに、私は少し間を置いて頷きました。
そこで目の前の大男が、乾いた笑いを上げーー。
「……自分の蒔いた種とはいえ、情けねぇな」
大男は酔いが冷めているようで、真剣な面持ちでボソッと呟きました。
「これで大丈夫ですよ」
「……アンタには、借りが出来ちまったな」
「私は当然の事をしたまでです。ただし今回、あなたにも非がありますのでーー」
「わかってるよ、すまなかったな」
大男はぶっきらぼうに言うと、こちらに対し一度頭を下げ、足を引きずりながらもそのまま店を後にしました。
「さてーと、仕切り直しと行きましょうか」
いつの間にかビールをお代りしていたガオウさんに促されて、椅子に腰を下ろします。そして各々の飲み物が入った杯を目の高さにまで掲げ、私達は乾杯をします。と同時にガオウさんとマリモンが食べ物を口に放り込んで行く中、私はビールに軽く口を付けてから杯をテーブルに置きます。そこでジリウスさんが、私の両目を見ながら咳払いをしている事に気が付きます。そしてーー。
「パラディン君、イールの騎士とのやり取り、最後のは正直頂けなかったな」




