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私の夢はーー。

 ◆ ◆ ◆



 水晶でミケさんと依頼の件を話し合った後、ガオウさんとマリモンの三人で泊まる宿の手続きを行っています。必要事項の記入をして前金を払うと、それを待っていたのかマリモンが尋ねてきます。


「隊長、ミケ姉達の部屋は取らなくてイーんすか? 」

「大丈夫ですよ。ミケさんにはこの街の出張所に顔を出して貰っていたのですが、隣町のバラガに届け物の依頼が入りまして、彼女達には今日中にその町へ向かって貰う事になりましたので」


 するとガオウさんが、身体を乗り出し気味で話に入ってきます。


「と言う事は、今晩はお守りを気にせず思う存分飲んで、あと久しぶりに夜の町で羽を伸ばせるって事ですね! 」


 そう言うガオウさんの表情は緩んでいます。顔を綻ばせます。そしてマリモンに気が付いたガオウさんは、顔を綻ばせて彼の肩をポンと叩きます。


「お前も夜のお店、連れて行ってやろうか? 」

「……自分は遠慮するっす」

「なんだ? 女には興味なしか?」

「いやっ、そうじゃ無いんすけど……」

「ははぁ〜ん。故郷に残してきた女に気をつかってるのか。むだまだ若いな」

「そんなんじゃないっすよ! 」


 マリモンは今の一言が頭にきたのか、顔を朱に染め語気を強くして言い放ちました。それに押された形のガオウさんが、「まあまあ落ち着けって」と宥めながら私の方へと向き直ります。


「隊長、夕飯まで少し時間ありますけど、どうします? 」

「そうですね、この街には私が愛用する防具屋、たくみの姉妹店、きずながあります。少し覗いてみても宜しいですか? 」


 他にする事がないと言う事で、二人は私に付き合い街の大通りに面している、防具屋絆を訪れる事に。

 その横長で長方形の建物は三階建てで、広いフロアの全てに防具関連の品が陳列されています。

 店内をじっくりと見て回っていると、店員さんの一人が接客のために話しかけてきました。そして一緒に店内を歩き、色々と商品説明を受ける内に、いつの間にか私を接客する店員さんの人数があれよあれよと増加。

 そしていつしか、私はその店員の皆さんと意気投合して気分が良くなったのでしょう、『いつの日か自身の鎧を作るのが夢です』と告白すると、話が更に盛り上がり多くの事柄について語り合いました。そして防具力を落とす代わりに自由度を手に入れるか、可動域を狭める事になるけれど防御力を増大させるのか、等そんな楽しい議論をして行く内に、いつの間にか窓からさす光が白色から橙色へと変わり始めて来ました。そして店内の長椅子には、ぐったりと深く腰掛けているガオウさん達。

 とそこで、一度奥に引っ込んでいた店主さんが戻ってきます。歴史を感じさせる骨董品であろう兜を抱えて。

 うーむ、あの兜には一体どんな云われがあるのでしょうか?

 店主さんの口から飛び出すであろう言葉を、今か今かとワクワクしながら耳を傾け待っていると、突然ガオウさんが私の右腕を掴みます。そして手を引かれる形でーー。


「まっ、またのご来店をお待ちしております! 」


 こちらに向け店員さん達が声を発する中、私は店外へと連れ出されました。


「……お腹すいたっす」


 マリモンがお腹を手で抑え呟きました。そんなマリモンを見て思います、二人には退屈な時間であったのかもしれないと。反省です。


「待たせてしまい、すみませんでした」

「いいですよ、それよりそろそろ飯にしますか」


 それから私達は、酒場捜しのために歓楽街に入ります。そして幾ばくか進んで行くと、立ち並ぶ酒場の一件に目を付けます。外扉を挟み込むようにして設置されたランプが、落ち着いた色を灯すお店。良い雰囲気なため、ゆっくりと飲めそうです。

 私達はその酒場の戸を開きます。すると店内から賑やかな声が聞こえてきます。かなり繁盛しているようです。中に入ってみると、店内は入り口より一段低く設計されていたため、そこから広い店内を見渡す事が出来る仕組みとなっていました。そしてすぐ近くに空いている丸テーブルを見つけたため、そこに向かって歩き出します。

 と店内を進んでいると、私に気付いたお客さん達が、ヒソヒソと一斉にざわめき始めます。


「おいっアイツ、パラディンじゃないか? 」

「あいつがか! 」


 次々に上がる声。その中でも二人の酔っ払いが人目も憚らず吐き出す大きな声に、お客さん達の大半が耳を傾け出します。


「ハハッ、噂通り上から下まで真っ黄色だな」

「バカ、あれは山吹色だろっ? 」

「おいハゲ、誰がバカだって? 」

「あぁん? あれが黄色に映る、つぶらな瞳をしたお前の事だよ! 」


 酔ったお客さん同士のケンカが始まってしまいました。

 私はレギザイール国内では認知度が高い方です。そして大抵の町では私の姿を目にした人達が、何かしらの反応をすることが多いです。しかし過剰に反応する人達も、時間が経過すると飽きて他の話題に移り、いつもの酒場へと戻ります。因みに酔っぱらったお客さんが勢いで絡んできた場合は、私はまず話し合いで解決を試みるようにしています。

 そして注目を浴びる中、目的の丸テーブルに着くと、近くのカウンターで軽く手を上げている人が目に付きます。

 バレヘル連合のエンブレムをその鎧に刻み、短髪を逆立てた今年四十に突入した男性。あの人はーー。


「ジリウスさん! 」

「皆、ここで会うとは奇遇だな」


 そう言うとジリウスさんは、渋い顔に笑みを作られます。

 私達がレート王国へ行っている間、ジリウスさんには王都での仕事を頼んでいたので、この街にいると言うことは、新たに入った任務で訪問されているのでしょう。

 ジリウスさんは席を立つと木製のジョッキを片手に持ち、一緒にテーブルを囲むためにこちらに進んで来られています。

 そこでガオウさんが近くを通りかかった店員さんに声を掛けます。


「お姉ちゃん、ビールを二人分。あとーー、マリモンも飲んでみるか? 」

「俺は水でいいっす」

「そか」


 手にしたメニュー表を見ながら、引き続きガオウさんが注文をします。


「そしたらあとはーー、骨付きカルビとシャカシャカポテト、サラダの盛り合わせに怪鳥の軟骨唐揚げ。まずはこんなもんか、じゃ、お姉ちゃんよろしく」


 注文をとり終えた店員さんがテーブルから離れ、最初の飲み物が来るまでの間ジリウスさんを中心に雑談をしていると、こちらへ一つの影が近づいて来ます。そしてガオウさんとジリウスさんの後ろ、即ち私の正面まで来た所でその脚を止めます。


「こんな所で会うとは奇遇だな」


 突然こちらに向けられた言葉に、驚いて振り返るガオウさんとジリウスさん。そして私は思わず、その目の前に立つ人物を見て、声に出してしまいます。


「あなたは……ウィンベル=バッハ、ですか? 」


 私が確認のためにそう名を呼んだ人物は、銀色をベースに差し色として赤色が入った鎧を身に纏う、一人のレギザイール兵でありました。

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