私は二つ
冒頭の辺りを読みやすい様に若干修正しました。
特に最初のプロローグは、以前よりも謎を無くした形(それでも意味不明な仕上がりですが)になりましたので、良ければ見てやって下さいです♪
「おいちゃん、たい焼き五つ」
「あいよ!」
私の注文に反応した店主が、生地を焼型へと流し込んでいく。焼き上がるまで暇を持て余し街道を眺めると、遠くに見える団子屋付近で、設置されている長椅子に腰かけているトロを見つける。そしてそのトロの膝枕でスヤスヤと寝ている蜘蛛の姿と、ドリルが顔の半分が綺麗に隠れる程の長い前髪を揺らしながらも団子を包む葉を大事そうに抱え駆け寄っているのを確認する。
「そう言えばパラディン様、視力がだいぶ回復したそうですね! 」
トロに団子を渡しながらドリルが話しかけると、トロは「ああ」と相槌を打った後に話し始める。
「その件だけど、私温泉で泳いできた隊長とばっちり目が合った気がするのよね」
「えぇぇ! と言うことは、やっぱりあの時、既に見えていたのですか!? 」
トロは、フフッ、と意地悪そうに口角を上げた。
「ドリル、あんたスッポンポンで飛び回ってたからね。あっ、お姉様! おはようございます」
あわわわわ、となっているドリルの横で、蜘蛛は何事もなかったかのようにゆっくりと体を起こすと暫くボーとした後、一度トロの方を向くとまたボーと虚空を見つめ出す。トロはそんな蜘蛛を笑顔で見つめている。
レート王国からの帰り道、私達バレヘル連合の一行は、レギザイール領内で東に位置するバラガイールの街に寄っていた。因みに現在、男女で別れ街を見て回っている。
「んしょっ」
ドリルは落ち着きを取り戻した様で、長椅子に腰を落とすと蜘蛛の顔を覗き見る。
「クモ様、眠そうですね」
「あともう少し、かかるかな? 」
寝起きの蜘蛛は、起きた直後はいつもあの様に一時の間動こうとしない。
トロとドリルが見守る中、さらに少し時間が経過してから蜘蛛が小刻みに頭を振った。あの動作は、蜘蛛が完全に目を覚ました事を意味している。それを確認したトロが、待っていましたと言わないばかりに話しかける。
「お姉さま、この町には矢の専門店があるそうですよ! ミケ姉が戻ってきたら二人で見に行きましょっ」
トロの誘いに頷く蜘蛛。
「あっ、ボクも一緒に行っても良いです……か」
思わず口を詰まらせるドリル。
急に無表情になったトロが、ドリルに向け無言の威圧感を放っていたからだ。視点が定まらないその虚ろな瞳で静かにずっとドリルを見つめ続けている。そして何事もなかったように表情を戻したトロは、何事もなかったように蜘蛛との話を再開する。
「この魔竜合成弓で普通の矢を真っ直ぐ飛ばすのは難しいですから、鎧通しとは別にもう少し軽くて使える矢を探そうかなと思うんです」
蜘蛛はトロの言葉に少し考える素振りをみせたあと頷くと、視線をドリルに移した。
「……ドリルも、来る? 」
「えっ、良いのですか!? 」
蜘蛛の言葉にパアッと明るい表情になるドリル。しかしーー。
「うっ……」
また無表情に戻ったトロが、次は蜘蛛の背後からヌッと顔を出してジッと覗き始めたため、ドリルの瞳に薄っすらと涙が溜まっていく。
「トロ~、ドリルを苛めたらダメでしょ? 」
私は口をもぐもぐさせながら右手に頭を失ったたい焼きを掴み、残った手で人数分のたい焼きが入った紙袋を抱えた状態で、トロとドリルの正面に姿を現わした。
「べ、別に苛めてなんかないよ」
「そお~? 」
トロへまじまじと覗き込むように自身の顔を近づけていくと、トロは引き攣った笑顔を見せてくれた。そして苦しくなったのか、トロは私から顔を離すとドリルに同意を求める。
「そうだよね、ドリル」
ドリルはと言うと、そんなトロに押されてか、「はっ、はい! 」と答えた。
まぁ〜トロを追い詰め過ぎても可哀相だから、これぐらいにしておきますか。
「ならイ~んだけど。ほい、焼きたてのたい焼き人数分」
トロに紙袋を渡してから本題に入る。
「そうそう、急な話なんだけど依頼が入ったんだよね〜。勿論あんた達も来るわよね?」
それから私達は、どうしてもと言うトロの要望で矢の専門店に寄ってから、バラガイールの街を出発するのであった。




