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死亡フラグ?

 まだ湯に隠れているが段々と近づいて来ている事もあり、全ては見えないがそれの正体が人である事がわかってくる。


「トロ様、トロ様! 」

「なっ、なによ? 」


 曲者に気付いたドリルが近くにいるトロの肩を掴むと、指をさしながらトロの名を呼んだ。呼ばれたトロは驚きながらもドリルが指す方向を見やると目を見開く。そして即座に、私と同じように露天風呂に持って来ていた武器である弓と矢を取りに、湯の中をドブドブと音を立てながら脱衣場方面の岸を目指し始めた。

 しかし意表を突かれたとは言え、こうも堂々と正面から現れるとは、曲者ながら大した奴だ。ナイフを構えながら更に曲者を観察すると、その体格から男である事が伺える。


「おっ、男の人!? 」


 タルト姫も迫る男に気付いたようで、上擦った声が聞こえた。いや待てよーーそうか、姫が何らかの理由で狙われているのかもしれない! 理由は全くわからないけれど、何てったって姫様である。私のような一般人とは違い敵となりうる者など掃いて捨てるほどいるのだろう。間違いない、姫を守らねば! 私は近くにいたタルト姫の手を握ると距離を置くように湯船の中を移動する。

 そしてそうこうしている内に、見る見ると距離が狭まっていきーー。ザバーンと豪快な音を立て、勢いよく水面から顔を現す白髪の、あら予想外のイケメンさん。そして悠長に濡れた顔を拭いながら辺りを見回している。この刺客、素手であり尚且つブラブラの全裸であるため、魔法使いなのか!?


「おやっ、負けてしまったようですね」


 ん? 何処かで聞いた事のある声色にーーこの言葉遣い。


「隊長、……どうした……の? 」


 最初から最後までその場から動かなかったため一番近くにいる蜘蛛が、いつものようにテンション低めに曲者へと話しかける。と言うかこのイケメン、パラディン隊長!? 初めて素顔見た! と言うか何故ここに? そしてどうやって来た?


「あれ? ガオウさん?」


 パラディン隊長が目を擦りながら蜘蛛へと向かい歩み始める。

 ーーふぁっきゅっ!

 風向きが変わり、こちらを覆っていた湯煙が次第に晴れていく。私は咄嗟に湯に沈み身体を隠した。そして対面する、素っ裸である男女。


「蜘蛛……だよ」

「く……も!? 」


 湯けむりが晴れていき無防備に立つ蜘蛛の白い裸体に、思わず言葉を詰まらせるパラディン。


「い、いや、これは一体……もしかしてこの温泉、繋がっているのですか!? 」


 とそこで突然の事に固まっていたドリルが、怒りのため前を隠す事も忘れワナワナと身体を震わせ始める。


「貴方はパラディン様なんですか!? どうして覗きなんて卑猥な事を! 」

「ちっ違うのです! こ、これには訳がありまして」


 とそこで殺気を感じる。湯煙で見えないが、確かそっちはトロが走っていった方向。もしかしてトロ、突然現れた男がパラディン隊長であると認識していない!?

 そして放たれた。重く低い弦を弾く音と同時に、強烈な風を切る音に乗り湯煙に巨大な穴を開け突き進む鎧通し。その空いた穴からトロの姿が確認できたため私の考えが正しかった事が分かったが、今はそれどころではない。トロの魔竜合成弓ドラゴンインパクトから放たれた専用の鎧通しが、私が目で追う事を拒むような早さで横切る。そして私が完全に振り返りパラディン隊長の姿を捕捉出来た時には、岸から放たれたため射角が射ち下ろしの形で進む鎧通しが、パラディン隊長の後方の湯に到達しその衝撃で湯を激しく撒き散らしていた。パラディン隊長はバランスを崩してしまっているが転倒を免れ、蜘蛛&ドリルは波打つ湯に揺られている。しかしパラディン隊長、どうやってあれを避けたのか分からないがその透き通る白い肌にそれらしい傷は見当たらないため、どうやら無傷のようだ。そして次の鎧通しをつがえ始めるトロ。てゆうかそんな攻撃を連続でくらい続けたら、いくらパラディン隊長でも死んじゃいますよ!


「トロ! ストップストップ! その男、どうもパラディン隊長みたいよ! 」

「えっ? ……隊長? 」


 そのトロの呟きに私が頷いて見せると、我に返ったのかトロは両手で身体を隠し背中を向けてしゃがみ込んだ。


「騎士様、何故!?」


 とそこで私の隣で直立不動に立っていたタルト姫が声を荒げた。そして何の因果か、その拍子にタルト姫の起伏の少ない身体に巻きつけていたタオルが外れてしまう。突然現れたそのつるりとした裸体を何の遮蔽物も無く目の当たりにしてしまうパラディン隊長。


「「あっ」」


 二人は同時に驚きの声を漏らした。そしてタルト姫は見る見るうちに顔をリンゴのように赤らめて行く。続けてタルト姫が、露天風呂に響き渡る声で悲鳴を上げた。と言うかパラディン隊長、王族の裸体を見ちゃうなんて、死亡フラグなんではないでしょうか!?

 その時不意に、どこからともなくこちらに向け殺気が走った。この感じは、ーー本物の刺客!?何処にいる? 五感を研ぎ澄ませ辺りを探って行く、ーーいた! 顔の目元だけを露わにした覆面頭巾を被る怪しい奴が茂みに潜んでいる! さてどうする? 敵がどれだけいるか分からない状況で私は護身用のナイフしか携帯しておらず戦力外。パラディン隊長は問題外でトロは鎧通しがこの場にあと二本。ここは露天風呂まで弓を持ち込んでいる蜘蛛に皆の武装が整うまで魔弾で頑張って貰うしかないか。

 とそこで、覆面頭巾の視線が上方、夜空へと向けられていることに気づく。釣られて見上げて見ると、そこには真っ裸で上空を舞うドリルの姿があった。どうやら彼女、私の視線にいち早く気付いていたようで、湯船に浸かりながらもその底を大きく蹴り飛び上がったのだ。

 月明かりに照らされる一糸も纏っていないドリルが上空で握りこぶしを作ると、落下のスピードのまま着地地点である覆面頭巾がいる茂み付近の岩肌を右手で力の限りに殴り付けた。

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