頭を切り替えてみよう
「なぁシャルル、魔力容量なんだがいくつあるんだ?」
「ん? 18ですけど何か文句でも? 」
「なっ! 」
それを隣で聞いていたユアンが、驚愕のあまり声を漏らす。
ユアンが驚くのは凄く正しい反応だ。
絶対におかしい。シグナもそう感じた。
現にシャルルはつい今しがた、魔力が28ある事を証明したのだから。
「その18って言う数字は、間違いないのか? 」
なにかの間違いかもと思い再度問うと、シャルルは少し怒ったように口を尖らせる。
「間違いないよ、ちゃんと水晶で測ってもらったんだから」
魔力総量に応じて、発する光の明るさが変わる特殊な水晶がレギザイール軍にある。
18と20でも明るさに結構な差がある。18と28を間違えることは流石にないだろう。逆に実際それだけあれば、魔道士にスカウトされているだろうし。
ではいったい?
「しかしさっきはそれ以上に魔具を使用していたようだったが? 」
ユアンも堪らず疑問をぶつけた。
魔力は時間が経てば回復するが、それは深呼吸をするようなリラックスした状態になり、初めて少しづつ回復を始めるものである。
質問したユアンが一番わかっているだろうが、シャルルはそんな時間を一秒も与えて貰えていなかった。
「えっ、魔具は消費1なんでしょ? 」
エネルギーをそのままボールなどの簡単な形に固定、しかも短時間だけ作り上げるだけの魔具ならば、消費1も可能なのかもしれない。
しかし貴重な魔力を消費してまでする事ではないし、レギザイール軍が支給しているこの電撃の剣は、どこからどう見ても消費1なんてレベルの魔具ではない。
どうやらシャルル本人もよくわかっていないようである。
つまりこう言う事だ。
シャルルに聞いてみた。
すると謎が一層深まった。
このまま考えていても埒があかないので、少し頭を切り替えるか。
ふと周りに目をやると、博士がもの言いたげにユアンの方へ視線を送っている。
そう言えばそうだった。
随分脱線してしまったが、ストーム捜索のための手がかり、鑑識魔法を使える人間を連れて来ると言う話であったのだ。
「ところでユアン、鑑識の人間はどうしたんだ? 」
シグナの問いにハッとした表情になったユアンは、申し訳なさそうに博士君に語りかける。
「すまない、少し頭に血が昇ってしまっていたようだ。それで鑑識を呼ぶ件なんだが、手配書が出ていないと呼べないそうなんだ」
「そう、なんですね」
細身な青年警備兵、博士君が見ていて分かるぐらいガックリと肩を落とした。それを見て慌てるユアン。
「いや逆を返せば、手配書さえ提出されていれば呼べると言う事だ」
ユアンは胸元から一枚の紙とペンを取り出す。
「少し面倒かもしれないが、今からストームに関する情報を申請書にそって埋めて行くから、質問に答えてくれ」
手配書の作成に取り掛かるユアンと博士君。
シャルルはと言うと、やはりかなり疲れているようで、壁に背中を預ける形で腰を下ろしていた。
シグナはその隣に行くと、立った状態で壁に背を預け腕を組む。
「なあシャルル、この事件絡みの手配書は受理されないって言ってなかったか? 」
「そうなんだ、ちょっと窓口の人が…… 」
珍しく口どもるシャルル。
「どうしたんだ? 」
「その、あんまり良い人じゃないんだ」
苦笑いしながらそう言っていたかと思うと、次の瞬間にはわざとらしく両手を胸の前で握る、所謂神への祈りのポーズをとり瞳を輝かせ始める。
「ただユアンさんのようなきちんとした人なら、もしかしたら奇跡、もとい受け付けてくれるんじゃないかなとも思い出している」
まあ人にはそれぞれ苦手なタイプと言うのが存在するが、嫌いな人間を定義するハードルが低そうなシャルルが言う、良い人ではないという人物は、万人からも苦手とされる人物の可能性が高いな。
出来ればそういう人間にはあまり関わり合いになりたくないものだ。
「よし、これで出来上がりだな」
ユアンの声が聞こえた。手配書を申請するための書類が出来たようだ。
それを聞き腰を上げるシャルル。
「じゃ行こっか」
シャルルが手を差し出してくる。
ん? ここって手を差し出される場面?
何だか家に引きこもっている人を、友達が外に行こうよ! と手を差し伸べ誘っているようでもある。
握りませんけど。
「いや、俺は辞めとくよ」
「え? シグは行かないの? 」
「あぁ、俺がいくと色々と面倒になるだろうし、ここで待たせて貰うよ」
「そっか、ある意味お尋ね者だもんね」
「うっさい」
「じゃ、サクッと奇跡を起こして来るね」
ユアンの後に続いて歩き出したシャルルは、こちらへ振り向くと元気に手を振る。
シグナはハイハイと言った感じで、片手を上げてそれに答えた。




