ぺったんこ
私も服を脱ぎ始めていると、ドリルがトロ達の近くにはいるが輪に入ることがなく、服を脱ぎながら時折視線を向けては俯きを繰り返しているのが目に付いた。
ふぅ〜、こう言うのって見過ごせないのよね〜。
そこでドリルに声を掛けようとしたのですが中断させます。それは既に、全裸で準備万端な状態になっている蜘蛛が音もなく、ドリルに接近を開始していたからだ。
「わっ」
蜘蛛が上手いことドリルの意識の外から一気に密着すると、タオルで胸を隠しながらパンティーを脱ぐ最中であったドリルが驚きの声をあげた。蜘蛛は構わず、タオルを軽く数度引っ張っる。
「温泉、皆で入る。……楽しいよ?」
「……クモ様」
しかしあの蜘蛛とドリルの距離感は近すぎる。詰め寄られている形のドリルも上半身が後方に逃げているし。そして案の定、それを目の当たりにしているトロの表情が、僅かにだけど引き攣っているのが確認出来ちゃいました。
そしてトロが動く。因みに正面からペタペタと素足で近づくトロは、上下共に下着しか身に付けていません。ドリルも迫るトロの怒気に気づいたようで恐る恐る顔を上げますが、目が座ってしまっているトロの瞳を確認すると、戸惑いの色を隠せないまま思わず下を向いてしまっちゃいました。そしてそこでトロが無理矢理笑顔を作ると口を開く。
「そだ、ドリル! 皆ともっと打ち解けられるよう、あだ名をつけてあげよっか?」
「……えっ、良いのですか?」
「勿論」
その時トロは表情を読み取られたくないと言う心理が働き、無意識でしたのだろう。俯くようにして、僅かにドリルから顔を逸らしたのだ。またほくそ笑むように口角がほんのり少しだけ、上へと釣り上がるのも私は見逃さなかった。
「あなたは単なる『まな板』って意味で、これからは『ぺったんこ』なんてのはどう!」
「えっ、ぺったーー」
「よし、それで決まりね!」
ドリルの同意を待たずに、トロは勝手に独りで決めた。そしてあんまりな展開にドリルは自身の胸の辺りを摩ると、目に涙を浮かべてしまっている。
ちなみにトロの胸は標準程度であり、確かにドリルは気の毒なレベルではある。
まぁ〜湯に浸かればそんな些細な事も忘れるでしょ。
私は着用していた衣服を畳み籠に入れると、唯一身につけている物が首から下げたペンダントだけとなる。そして一番準備が遅れていたタルト姫がその小さな裸体をタオルで包んだのを確認してから、護身用のナイフを右手に持ち左手に持つタオルをビシッと肩に掛けた。
「さっみんな、入ろ入ろ~」
入り口とは真逆の位置に設置されている引き戸を、ガラガラガラと音をたてながら開け放つ。すると目の前に飛び込んで来た景色に、後ろから続くトロ達が「わぁ〜」と言う感嘆の声を上げる。
そしてそれはごく当然の反応でありましょう。湯煙が上がる広大な温泉と、それを取り巻く大自然のパノラマに遭遇してしまったのだから。
温泉の空にかかるようにして伸びた枝には、緑や赤、黄色といった多彩な色合を帯びた葉や柿等の木の実が付いている。またそれ等の木々の枝には、魔法の光源入りのランプが取り付けられている事により、陰と陽のコントラストが生まれ深みを増している。
凄い、これは凄い! 湖のような広さの湯に、芸術作品のような見事に配置をされた樹々や岩盤、そしてそれ等の価値を更に高める湯煙と魔法の光源! そして何故か、温泉特有の硫黄の匂いもしない。
コフォゥーー!
我が身体を多いしピチピチの肌達よ、その全てを持ってこの湯の成分を吸収し、眼前に広がる景色を肌に刻むのだ!
宿に着いた時に身体は洗っていたので、今回は掛け湯のみをすると、私は眼前に果てし無く広がる世界へとダイブした。




