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樽兜の下の顔

「今さら兜なんかとったって、手遅れ……」


 タルトさんの厳しい意見が聞こえる中、私は取り外した愛用の樽兜を脇に抱える形で持ちます。

 陽が暮れかかっていますが、それでも色素の薄い私の肌には、刺さるような刺激を感じます。


 私は先天性色素欠乏症アルビノであります。この世に生まれ落ちた時から肌の色、また頭髪を含む全ての毛が真っ白であり、また瞳の色が薄い紅色に染まっています。

 その異質な外見が原因で、幼い頃には村八分にあった事があり、またアルビノの身体には神聖な魔力が宿っていると言う迷信のため、私の臓器目当てであろう誘拐にあった事もあります。

 その時助けてくれたギルマスへの恩返しが元で、このギルドに入隊したのですが、私はここで大切なものを沢山得る事が出来ました。

 意識を戻すと、タルトさんが私の素顔を見たがため、驚きのあまりこれ以上抗議をするのを止めたようです。

 兎に角悪いのは全面的に私、謝らなくては。


「大変失礼致しました。実は少し眼を悪くしておりまして、焦点の合っていない顔を見られるのが恥ずかしい、と言う事と、この外見のため日差しから避けるためにいつも兜を装着しているのですが、どうも兜を被っていないと落ち着かなくなってしまっておりまして。出来うる限り、最大限のお詫びをさせて頂こうと考えております。この度は、誠に申し訳ありませんでした」


 私はただひたすら、タルトさんに向け頭を下げ続ける。

 すふと暫くして、タルトさんの掠れるような声が私の耳に届く。


「お顔を御上げ下さい。……それより眼を悪く、ですか」

「はい、生まれつき弱かったのですが、外的要因が引き金となり一気に。あっでも、今は温泉の効能で視力が回復してきているところなのですよ」


 気がつけば、タルトさんからつい今しがたまで出ていた迫力が消えている事に気付く。


「許してあげてもイーけど、えーと、どうしようかな?」


 そこでお腹が空腹を知らせる音が辺りに鳴り響く。その音の発信源であるマリモンは、お腹を押さえると「腹減ったっすね」とガオウさんに同意を求めています。

 するとタルトさんは、一歩前に出るとニッと笑顔を見せた。


「騎士様、良かったら私もお食事、ご一緒しても宜しいですか?」


 騎士様? どうやら私の事を言っているようですが。


「えぇ、私は構いませんが」


 するとタルトさんから眩い程のオーラが溢れるのを感じ取ります。


「本当ですか! スノー、と言うわけでこの方達と一緒に食事を頂きますので」


 タルトさんの言葉に声を失うスノーさん。そこにタルトさんは自信満々に続ける。


「なにか問題でもある?」 

「もっ、問題だらけだぞ! 名前も知らない余所者と食事だなんて」


 煩そうにしながらも、スノーさんの言葉を聞き流すタルトさん。そして私の方を向くとニッコリと微笑んだ。


「私はタルト。騎士様は?」

「自己紹介が遅れました。私はパラディン。レギザイール王国に拠点を置くバレヘル連合と言うギルドで、現在ギルドマスター代理を任されています」


 この者が噂の、と微かに漏れたスノーさんの声が聞こえる。


「そして彼らは、私のために今回同行してくれている仲間達です」


 紹介をすると、ガオウさんは胸を張って笑いながら付け足す。


「しっかりと観光も楽しんでるけどな」

「旅にはあと四名来ていまして、私たちは現在こちらで待ち合わせをしている所だったのですよ」


「まぁ皆様、仲が宜しいですのね」


 タルトさんは両手を胸の辺りで合わせて言うと、スノーさんに向き直る。


「スノー、これでイーでしょ」

「……わかった、その代わり俺も同席させて貰うからな」

「えー」


 不満の声を上げながらも、タルトさんは納得したようです。

 しかし先程から、行き交う人々の視線が気になります。

 素顔を晒す、この行為は幼い頃に味わった誘拐を思い出させる、私にとってはいつまでも苦痛を伴う行為である事に変わりないようであります。


「失礼します」


 私は脇に挟んでいた樽兜を在るべき場所へと戻します。

 その際タルトさんが何かを言うような素振りを見せましたが、一度言葉を飲んだようです。そして少し間を起き話始めます。


「騎士様、食事の後はどうされるのですか?」

「宿に戻って温泉に浸かる予定ですが」

「失礼ですが、どちらにお泊まりに?」

「山荘(サク)です」

「まぁ、そこなら常連客だけが入れる露天があるのですが、紹介しましょうか? とても広くて、周りの山々が見渡せる素晴らしい温泉ですのよ」

「そんな素晴らしい温泉、宜しいのですか?」

「えぇ、皆様と一緒に行きましょう」


 それからすぐ、頃合いを身計らったかのように現れたミケさん達女性陣と合流した私達は、お酒は程々に食事に舌鼓を打ちました。

 それから私達は、タルトさんが紹介してくれると言う常連客御用達の特別に湯に浸かるために、足早に宿へと戻った。

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