女性が美容にお金を使うのは、当然の権利であります!
豪華宿を出た私達は現在、宿に用意されていた浴衣に身を包み、お食事処を探しながら街の大通りに並び建つ、土産物屋さんを見て回っていたりします。
「隊長、眼の調子はど〜ですか?」
私は言いながら、樽兜の中にあるであろう、パラディン隊長の瞳を覗き込む。
駄目だ、暗くて見えねぇ!
「それがですね、温泉につかっていた時は気づかなかったのですが、今こうして行き交う人々を見ていて、少し視力が回復している事を実感して、驚いていたところだったのですよ」
「おっ、まじか!? 」
「隊長、やったっすね!」
ガオウとマリモンは、各々喜びの声をあげた。
実はパラディン隊長、若かりし頃の任務中、犯罪者を検挙する際に雷魔法を頭部に受けてしまった事がある。
その直後は痛み以外何とも無かったそうなのだが、暫くすると視力が落ちている事に気付き、それから徐々に視力が低下する悩みを抱える事に。そして現在では、辺りが光と色でしか判別出来ないほど悪くなっているそうである。
しかしよくそれでここまで旅が出来たものである。
パラディン隊長曰く、見るのでは無く、感じるようにしたらどうにかなりますよ、との事だ。
あんたは仙人か!?
と言うツッコミは置いておいて、その事実を知ったバレヘル連合の古株連中は、それからと言うもの眼に効くと言う噂話でも聞けば、それらを求め走り回った。しかし数多の方法を試すも、一つも良い結果は現れない。
そこに今回、レート王国の温泉の効能、治癒効果が上がっていると聞きつけた私達は、藁をもすがる思いで旅立つ事を決めたのだ。
そしてそのタイミングで鬼引きを見せた私の勝負運のおかげで、これ程の人数での旅へと変わったのだが、我ながら自身の才能にあっぱれであります。
「宿屋の女将の話だと、ここ数日前からさらに良く効くようになっているそうだ。そのおかげで宿の予約が、すでに一年先まで埋まっているらしいぞ!」
仕入れたてほやほやの情報を、ガオウが腕組みをした状態で自慢げに語る。
そう言えば街に入る際、獣達に襲われる危険がある壁の外で、野営をしている複数の人を確認しましたが、その人達は宿屋の予約が取れなかった、もしくはそんなに先まで待てない温泉を求める人達だったのかも知れません。
しかし噂が本当だったとは。
パラディン隊長、良かったね。
「遠くまで足を伸ばした甲斐があったっすね」
マリモンの言葉に大きく頷くパラディン。
「皆さん、ありがとうございます。食事が終わったら他の露天の方にも行って、完全に目を治そうと思っていますので」
「隊長、お供するっす!」
さ〜てと、目的が達成されたようでありますし、少し羽根を伸ばしますか。
おっ、早速エステのお店発見!
温泉街って、この手のお店が必ず一軒はあるのよね〜。
それから私は小一時間程、良い香料が焚かれる個室で、お肌のメンテナンスをして貰いました。
はぁ〜、良く寝た。
やはり長年単独行動をして来たもんですから、一人の方が気が楽で良いですデス。
さてと、そろそろ食べる場所も決まってるだろ〜から、皆を探すとしますか。
それから団扇をパタパタさせながら歩いていると、早速二人めぇ〜けっ。
二人は道に設置されているベンチに腰掛け、何やら話し込んでいるようです。
私は人混みに紛れると、まだこちらに気付いていない二人の会話に周波数を合わせ、浴衣姿の蜘蛛とトロに忍び寄る。
「イーお湯でしたね」
「……スベスベ」
「あっ、お姉様ダメです!」
浴衣のスキマから手を入れようとする蜘蛛に、トロは身を守るために身体を捻り浴衣から蜘蛛の手を引き抜いた。
「トロ、喜ぶと……思ったのに」
蜘蛛が悲しそうな表情を見せる。
どうやらトロの反応がショックだったようだ。
トロはと言うと、恥ずかしそうに辺りを見回しながら小声で言う。
「そ、そういう事は部屋に戻ってからお願いします!」
何を言ってるんだか。
そこでトロと蜘蛛も私に気付いたようで、何も無かったかのようにこちらに向かい、大きく手を振ってみせています。
「ミケ姉、どこ行ってたの?」
「ちょっと女を磨きにね。ところで食べる場所は決まった?」
「うん、良い雰囲気のお店が見つかって、隊長達はもう店先で待っているよ」
「そうか〜。じゃ、早速行きますか」
「えと、それが……」
何故かトロが口ごもった。そこに蜘蛛が補足をする。
「ドリル……、いない」
なんですと?
「ミケ姉、と一緒じゃないよね?」
「全身エステコースの方には居なかったよ」
「ドリル、何処行っちゃったんだろ? お風呂で見たあの子の身体、至る所に火傷の跡が残っていたし……」
心配な声を上げるトロと、心配そうな表情を伺わせる蜘蛛。
話ではドリル、驚異的な回復力で普通に生活するまで戻っているらしいけど、灼熱赤竜との戦いでは死にかけているらしい。
私もトロ達に習い、道行く人の流れに視線を泳がせていると、占い屋のような暗くて怪しげなお店から、ドリルが出てくるのを私の瞳が誰よりも早く見つけ出す。
ドリルに向かって手を上げると、彼女も私達に気付いたようでこちらに小走りで駆け寄ってくる。
「お待たせしましたっ!」
戻ってきたドリルの表情は、晴れ晴れとした青空のような笑顔である。
そんなノー天気なドリルを見て、さっきから心配していたトロが凄い剣幕で詰め寄る。
「ちょっ、どこ行ってたの!? 急にいなくなったら心配するでしょ!捜したのよ!」
「あわわっ」
あまりの勢いにたじろぐドリル。
「す、すみません、囁き屋さんがあったもので行方不明のお兄ちゃんの情報がないかと……」
囁き屋、いわゆる情報屋である。
ご近所さんの噂話から、隣国の情勢まで多岐に渡って取り扱っている。
水晶が普及されてからは、各町の情報屋のネットワークが強まりそれこそ何処にいても色々な情報が手に入りやすくなったが、行方不明者の情報等小さな案件は水晶では手に入らない。また信憑性のない噂話などデマである可能性が高い情報も、水晶を通したがために一気に信用を失ってしまう可能性があるため、こちらも水晶を通して流さないものである。
そしてそう言う取り扱うに難しい情報は、足を運んだお客にのみ提供しているのが殆どだ。
「どんな理由があっても、一人が勝手な事したら迷惑するのは皆なんだからね! 分かってんの?」
「……ごめんなさい」
「お姉様とミケ姉にも謝りなさいよね!」
「トロ、もうそれぐらいにしてあげたら?」
言い過ぎな感があるため間に入ってみました。
「ほら~、ドリルはバレヘルの規律やら何も知らないわけだし、十分反省してるよ、ね?」
それでも涙目になっているドリルを、トロは厳しく睨みつける。
「……とにかくこの旅で、次同じ事したら、ホント許さないから!」
「……はい」
完全に下を向いてしまうドリル。
そこで私はドリルの肩にそっと手をかけると、優しい口調で語り掛ける。
「で、お兄さんの情報は手に入ったの?」
「それが……。ただ東のレバーツ国で目撃された二人組が、なんとなくなんですけど、お兄ちゃんのような気がするんです」
「それが本当なら無事って事ね。よかったじゃない。さて〜と、これ以上隊長達を待たせても悪いから、待ち合わせ場所に行きますか」
少しギクシャクしてしまったが、私達はパラディン達との待ち合わせ場所になっているお食事処へ向かうことに。
そして少し歩いた頃、ドリルに小さな影が急接近していた。




