友情の握手
パラディンに紹介されたドリルは、一歩前に出ると緊張した面持ちで挨拶を始める。
「はっ初めまして、ドリルです! 皆様お世話になります!」
ドリルはこちらを向くと、頭を大きく下げた。
どうやらこの子、今回の旅に参加するっぽいですけど。
「それでは皆さん、急遽今回の旅に彼女も同行する事になったのですが、その経緯を私のほうから説明しますね」
なっ、なんですと!?
「ドリルさんとは少し前に街の雑貨屋さんで知り合ったのですが、偶然ドリルさんのお仲間さんとは以前からの知り合いでして、今回の旅を聞きつけたーー」
これはめちゃくちゃ話が長くなるパターン!
私は咄嗟に脚を半歩だけ後ろに引くと、よろけた振りをしてガオウの斜め後方へと移動し、即席の盾を作る。
「なっ!」
ガオウが講義の声を上げそうになったので、特別に胸を押し付けてやるとガオウの動きがピタリと止まる。
よし、後は頃合いを見て離脱すればオッケーである。
オヤジがしがちな発想から生まれた、私のお尻へと伸びるガオウの手をはたき落としていると、後方に座るトロのヒソヒソ声が聞こえて来る。
「お姉様、あの子ドリルって名前みたいですよ。なんだか男っぽい名前ですよね」
「覚えやすい……名前、……嫌いじゃない」
「そうですけどーー」
トロは気になり出したら他の事に手が付かなくなるタイプであります。
私はパラディン隊長の話を右から左に聞き流しながら、トロ達の会話に耳を集中させていると、トロが蜘蛛の手を引いてドリルに歩み始めた。
彼女達はパラディン隊長の脇を擦り抜けると、その先にいるドリルに話し掛ける。
「ねぇねぇ、ドリルって本名? あっ、私はトロで、こちらはお姉様よ」
トロに話しかけられたドリルは、話し掛けられた事に驚いたのか、少しの間口をパクパクさせた後、すぐさま言葉を紡ぐためにしっかりと口を動かし始める。
「あっ、えと、本名は『ドの町のリル』と言います! ドリルって名前はお兄ちゃんに命名されたもので……」
「えーと、それってつまり、ドリルって名前は罰ゲーム的なものだったりするの?」
トロが言うように、たしかにその兄とやらの悪意を感じます。
「おっ、お兄ちゃんはそんな人ではありません!」
からかい半分で言ったトロに対して、今まで大人しかったドリルが突然眼を見開き、勢いそのまま声を荒げた。
そして更に続ける。
「センスが、少しだけ欠落しているだけなんです!」
ドリル、それってお兄さんへのフォローになってないんですけど。
「えっ、あ、ごめん」
トロはドリルの迫力にびっくりしたようですかさず謝り、それを見たドリルは我を取り戻したようで急に元気が無くなってしまう。
そして2人は俯いてしまった。
「なるほど〜! 因みに私はミケ。で、こちらのお姉様の名前は蜘蛛だよ」
絶妙なタイミングでガオウとマリモンを残し離脱した私は、蜘蛛の肩を掴んでトロ達の輪に加わると、これまた自然な流れで会話にも加わった。そして微妙な空気になりつつあったこの場を再生するべく、一石を投じる事に。
「ドリル!」
「はい!」
「貴女はそのお兄さんが、大好きなんでしょ?」
するとドリルの顔が見る見るうちに茹で蛸のように赤く染まっていく。
あれ? この反応は予想以上の……、禁断の恋ってやつではないですかい?
そして熱を帯びているドリルは、遅れて弁解の言葉を吐く。
「そそ、そんな事はありません!」
なにこの子、弄りがいがあるんですけど。
私の瞳が七色に輝き出し、照準をドリルにロックオンしようとしていると、邪魔する影が現れる。
それは私とドリルの間に割って入ったトロである。
「ミケ姉、この子を玩具にしたら駄目だよ」
「酷い、私が純粋無垢な女の子に悪戯をする、鬼畜変態さんみたいに言わないでくれるかな?」
トロはそんな私を無視してドリルに話し掛ける。
「このお姉さんが一番の要注意人物だから、これから気をつけてね」
ドリルは真剣な表情で頷く。
っておい!
しかしトロ、少し見ない間に腕を上げたみたいだね〜。
その時、私は場の空気が更に微妙に変化した事を感じ取る。
これはパラディン隊長の話が終わりそうな雰囲気!
そこで私は、右手をドリルに差し出す。
「そろそろ出発するみたい! ドリル、これからヨロシクね」
「はっはい! こちらこそ!」
「私達もよろしくね」
握手している私達の手の上に、トロと蜘蛛も手を重ねた。
こうして私達は、レギザイール兵ドリルを加えて、最近治癒効果が高まっていると大陸全土で話題になっている、レート王国へと旅立ったのであった。




