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旅行は沢山で行くより、一人のほうが好き!

 あ〜怠い。

 一人旅と違って団体行動は、周りに気を使うからいつもより倍疲れるますわ。

 まぁ〜仕方ないか。

 こうでもして無理にでも街を離れないと、したくもないお見合いを延々とさせられてしまうからですね。


 今回私達バレヘル連合の面々は、パラディン隊長を始めとする6名と、特別に同行することになったトロと同い年である、1人の少女を加えて旅をしていた。

 その目的地とは温泉地として有名であり、神話の時代に女神レイアザディスと月の魔竜が衝突した地の1つとされる、現レート王国の城下町である。

 レート王国はレギザイールの北東に位置する連合諸国の一つで、国の規模は小さいものの観光が盛んで豊かな国でもある。


 先程と比べると、照りつける陽射しが弱まっています。

 空を見上げると太陽はまだ高いけれど、時刻は夕暮れに向けて刻一刻と近づいているようです。


「お姉さま、温泉楽しみですね」

「温泉、肌……スベスベ」


 青のバンダナを額に巻いている女の子トロが、目の縁に大きなクマがある女の子、蜘蛛と仲良く並んで歩いている。


「嬢ちゃん達、レート城が見えて来たぞ!」

「ひゅー、陽のあるうちに着きそうっすね」


 クセ毛で肩まで伸ばした金髪が印象的なオッパイ星人ガオウが、山の谷間から見え出した城を指差し、まだまだお子ちゃまなマリモンが、顔に喜びを輝かせてパラディン隊長に話しかけた。


「皆さん、長い旅路でしたがあともう少しです。この峠を下れば目的地です、頑張りましょう!」

「はっ、はい!」


 パラディン隊長が肩が凝りそうなぐらい硬い口調で皆を元気付けようとする中、真面目な少女が一人だけ健気に返事をする。

 とその時、景色を眺めていたトロがその光景を目の当たりにして叫んだ!


「いっ、いたるところから煙が!」


 トロが指差す眼下の街からは、くすみの無い白色の煙が多くの場所から昇っている。

 しかしこのトロの反応、何も知らないようでありますね〜。


「トロはレート王国、と言うか温泉地に来るのって初めて?」


 素直に頷くトロ。

 やっぱりですですね。


「心配しなくても大丈夫、あれはただの湯気よ。あとこの地域はどこを掘っても温泉が沸くそうで、昇る煙の数だけ宿があると思ってイ~らしいよ」

「へぇー」


 トロと少女、そして離れて聞いていたマリモンが、感心したのか返事と共に瞳の奥を輝かせる。


「1、2、3ーー」


 そしてトロの隣の蜘蛛が、昇る煙の数を数え出していた。

 しかし当初はどうなるもんかと思ったもんですが、順調にいって良かったです。


 この日から遡る事、1週間と半日。

 薄っすらと広がる朝霧を、顔を出したばかりの太陽が照らしていた。

 私はレギザイールの城下町にある、待ち合わせ場所としてよく利用されている広場の噴水前にいた。

 早朝であるにもかかわらず、人の姿は疎らではあるが途切れる事がない。

 広場の段差に腰掛けていると、足下に黒猫が擦り寄って来たので、リュクサックからパンを取り出し千切ってあげる。

 そして黒猫が食事が終わったのを見計らって、喉やお腹をさすっていると、その猫ちゃんが突然私の手を振りほどき茂みに飛び込んで行ってしまった。

 視線を上げると、こちらに歩み寄って来ている蜘蛛とトロの姿を確認したため、声をかける。


「二人とも、おはよ〜」

「……、おはよう」

「ミケ姉、早いねー」


 蜘蛛は朝が苦手なようで、まだ半分寝ているようだ。そしてトロはそんな蜘蛛とは正反対のようで、朝から元気一杯に目を擦る蜘蛛の手を引いて来ている。

 二人は私の隣に座ると、蜘蛛はすぐにうつらうつらとし始めた。


「ねぇねぇミケ姉」


 トロが興味津々に話しかけて来る。


「お見合い、どうだった?」


 私はスッと目を細めると、ゆっくりと、そして抑揚のない調子で冷淡に言い放つ。


「ほぉ、それを聞くわけ?」

「えっ、いや、ーーミケ姉と釣り合う人って中々いないよねー」


 釣り合いか。

 言われてみれば、確かに相手に色々求めすぎているのかも。

 しかし妥協はしたくないのよね〜。


「トロ、世の中には本当ろくなのがいないわよ」


 ふと昨日のお見合い相手、石屋のトムを思い出し、イライラが募る。

 あいつは無神経も甚だしかった。いきなり今まで何人と付き合ったか? とか普通聞く?

 いくらイケメンだからと言っても、礼儀を知らない奴は真っ平御免です!

 速攻でごめんなさいをしてあげたわ。


 ーーと言うか遅い!

 そろそろ集合時間だと言うのに、男3人の姿がまだ見えません。

 こうして待っている間にも朝霧は晴れていき、行き交う人々の姿が次第に増えて行っています。

 そこでやっと、能天気な二人の声が聞こえてきました。


「本当っすか!?」

「あぁ、そこで俺は言ってやったんだ。助かったら乳くらい揉ませろよな、ってな」


 臆面もなく馬鹿な話題を大声で話しているガオウが、私に気づき話しかけてくる。


「よー、ミケ! 今日もイー天気だな。こんな日は日陰でゴロゴロが一番……なんだよおい」


 遅れて来たボンクラ騎士ガオウが、私が放つ滅殺オーラをやっと感じ取り、その締まりのない大きな口を閉ざす。


 私は座ったまま両手を頭上付近まで上げると、体を大きく伸ばす。そして首を右左へと横に倒してボキボキ言わせた後、立ち上がると睨みつけ質問をしてみる事に。


「今何時?」

「……えーと」


 そう言って辺りを見回し始めたガオウが、建物の外壁に取り付けられている時計を見つける。


「7時か」

「7時、5分よ」


「少しだけ遅れたか、わりわりっ」


 ガオウは自身の髪を上からワシャワシャとさせながら謝る。


「か弱い女の子達が朝早くから揃ってるって言うのに、男達はちょっと弛んでるんじゃないの?」

「……今回は旅行だろ?」

「時間に対しては遊びも仕事も同じでしょうが! と言うか、私は朝一番に買い物まで済ませて来ているんですけど?」

「……そんなの知るかよ」


 ガオウがボソッと言ったぼやきを、私の優秀な耳が聞き逃さなかった。


「へぇ〜、二人とも行列が出来るフランクフルトは食べたく無いみたいね〜」

「じ、自分もっすか!?」

「当然よ、遅れたのは二人なんだから」

「そっ、そんな、完全なとばっちりっす」


 肩を落とすマリモンに、ガオウのあんぽんちんが手を差し出す。


「マリモン、男同士仲良くやろうぜ」


 とそこで、トロが声を上げる。


「あれ、ミケ姉? 隊長がまだ来てないよ」


 なぬ、言われてみれば!

 その時私の耳が、雑踏の中から独特の金属音を拾い出す。


『ガシャ、ガシャ』


 そして視界に現れたのは、頭のてっぺんから爪先までを山吹色の防具に身を包んだ完全武装の男、パラディン隊長。

 今日もフルフェイスの為顔は見えないのですが、ファックユー!

 朝陽が鎧に乱反射していて眩しいです。

 そして光り輝くパラディン隊長は、頭を下げながら私達の目の前まで歩み寄った。


「皆さんすみません。遅れてしまいましたね」

「隊長はイーですよ」


 一応上司にあたるので、私は今後の事を考えて即答した。


「ミケ、あからさまに差別するのは良くないと思うぞ!」


 ガオウが透かさずツッコミを入れて来るが、スルーの方向で。

 しかしーー。


「隊長が遅れるなんて事があるんですね!」


 その時パラディンの後方にピタリとくっ付くように、一人の女の子が立っている事に気づく。


「隊長、その子は?」


 トロ達とおそらく同年代であろうその女の子は、恥ずかしいのかパラディン隊長の後ろに隠れるように立っている。

 また彼女は終始俯いており、その長い前髪で顔の右半分が綺麗に隠れているため、覗き込んでもどのような表情をしているのか見えない。


「こちらはドリルさんです」


 ドリル?

 ……たしか、この間の大陸剣闘士大会で活躍して注目を集めていた女の子の名前が、たしかドリルだったはずだけど。

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