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呪いの魔宝石

「あなた達はここにいるのよ!」


 私は二人に念を押すとわざとオヤジの目に付くよう、標的を私一人に絞らせるため、矢を放ちながら巨大ゴーレムの前へと躍り出る。

 私に気づいた巨大ゴーレムは、体を完全にこちらへ向け見下ろす形となった。


 さて〜と、私はこれから町から離れる必要があります。

 それは町中での戦闘でこれ以上町を破壊させない、と言うのもあるのですが、私が今から使う力が町にどのような影響を及ぼすのか予測不能である事、また見晴らしの良い、周りに物が少ない場所に移動する事により自身に降りかかる事象を少しでも回避しやすくするためでもあります。


 私は止めていた脚を動かし出すと最短で町の外へと向かうため、ゴーレムが壁に開けた穴を目指して駆け始める。

 すると巨大ゴーレムはゴリゴリ音をたてながら関節部分を可動させ出す。

 そして間合いを離していっている私目掛けて、その破片が飛ぶよう身近にある石壁を思いっきり殴りつけた。


 なっ!


 まさかそんな攻撃が来るとは思ってもみなかった私は、完全に意表を突かれてしまった。

 地面をバウンドしながら迫る大小様々な石の塊、私はそれから逃れるため、咄嗟に窓を破り民家の中へと飛び込む。

 そしてテーブルを倒し即席の盾を作った所で爆音が鳴り響き、家の中にも石の礫がいくつか侵入してきて壁が破壊されていく。


 そして砂煙が立ち込める中もう一度、巨大ゴーレムが壁を殴りつける音がした。

 ここに石の塊の第二派が降り注ぐ!?

 私が身を隠していた民家に強烈な衝突音と共に石の塊が激突していく中、マリモンとエミリアが私の名を呼ぶ悲痛な叫び声が聞こえたが、爆音により途中でかき消されてしまった。


 しかし寸時ののち、立ち込める砂煙から飛び出した影が私であることを確認したマリモン達は安堵の声をあげる。

 別の窓から飛び出していた私は、疾走を再開する。


 あれ?


 脚に違和感を感じて視線を落とす。するとあちゃ〜な事に。

 拳程の鋭い石がズボンを突き破り左太腿に突き刺さっており、こうして見ている間にもその箇所を中心にズボンが真っ赤に染まっていっていたりします。

 おのれ〜、これでこちらの威力が上がったからな〜。

 刺さっていた石を投げ捨てなおも駆ける私の後を、巨大ゴーレムが地面を揺らして追ってくる。前に体を倒し少し前傾で走る巨大ゴーレムは中々に早い。

 が脚を負傷している私よりも遅かったため、引き離し過ぎないよう注意しながら巨大ゴーレムを引き連れ町の外へと移動をする。


 そして見晴らしのよい草原に、別れの山脈から吹く冷たい夜風が通り過ぎる中、私と巨大ゴーレムは距離を置いて対峙した。


「死に場所は決まったか?」


 どこからともなく聞こえるオヤジの渾身のキメ台詞を、私は右から左へと聞き流しながらオヤジ本人がどこにいるかを捜す。そして巨大ゴーレムの遥か後方に位置する、大木の陰からオヤジの顔が出ているのを発見し、私は一先ず溜息をついた。


「ハンッ、今になって怖じ気づいたか!」


 何も話さない私を、オヤジは怖くて声が出ないと勘違いしているようだ。

 しかし私はそれを訂正することなく、思考を巡らす。

 月明かりがあるとはいえ、今いるこの場所からゴーレムを避けて仕留めるのは難しい。やはり当初の予定通りまずは力を使うしかないようである。

 ……弓って武器は本来、こうやって正面きって闘うもんじゃないんだけどな〜。


 そこでどんな敵が相手でも弓矢のみで一対一の決闘をしてしまう少女達の姿を思い出し、苦笑してしまう。

 仕方ないか。

 しかし先程から何やらオヤジが喋っているようで、相手するのがちょう面倒いぃです。


「ーーどうだ、悪くないだろう? 大人しく我輩の仲ーー」

「あっゴメ~ン。じゃ、そろそろ始めようか!」


 私はオヤジの話しの腰を思いっきり折るよう叫んだ、オヤジが隠れる大木に向かって。

 遠目から見てオヤジの顔があからさまに引き攣るのが確認出来る。

 しかしこの様な騒動を起こす輩なだけありすぐ様元気を取り戻したのか、叫びながら巨大ゴーレムを操り出す。


「後で後悔するなよー! 我輩のこの護六鎮魂ゴロクレムは最強だー!」


 その言葉が終わると共に大地を震わせながら距離を縮めてくる巨大ゴーレム。

 それに対し私は胸元になおしていたペンダントを素早く引っ張り出すと、口でそこに嵌め込まれている宝石の辺りを軽く咥え呟く。


「太腿がズキズキする〜、昼間起こされた~、夜中にも起こされた~、その時のタンコブまだ痛い~、イー男はどこにいる~」


 私が思えば思うほど、言葉にすればしただけの負のオーラが、口にした宝石から次から次へと滲み出てくる。それは纏わりつくように私を包み込んでいき、そしてその溢れんばかりの淀んだオーラが手にしている矢の先、矢尻へと急速に集まっていく。

 巨大ゴーレムはその間も迫って来ており、もう見上げる位置にまで来ていた。

 そして矢尻が紫水晶アメジスト色に怪しく輝きだす中、巨大ゴーレムは大地を揺らしながらその拳を振り上げ始めたため、私に射す月明かりが遮られる。


「ミケ姉ぇー!!」


 マリモンとエミリアの叫び声が私へと届く。

 そして巨大ゴーレムの拳が振り下ろされ始める中、私の手元から一矢が解き放たれた。


ぜろ!」


 その紫水晶色の矢は通過した空間に流星の様な尾を残し、巨大ゴーレムが振り下ろすよりも早く、風切り音を立てながら巨大ゴーレムの体躯、上部付近へと深く突き刺さる。

 一見するとその矢の軌跡は美しいが威力は凄まじく、巨大ゴーレムの足が僅かに地から離れた。

 そのため私目掛けて出されていた拳はギリギリのところで届かず空をきり、体勢を崩して肩先から落ちる形で横転した。


「なっなんて威力だ! だが、この護六鎮魂は破壊出来なかったようだな!」


 肩で息をしている私は、立ち上がろうとしている巨大ゴーレムを攻撃する事なくただ見つめる。

 そして大気が振動を始めた。

 次いでコポコポと、泥が沸騰するような低い音が辺りに反響する中、ゴーレムに刺さった矢から鈍い紫光が漏れ出したかと思うと、矢に圧縮されていた負のエネルギーが一気に外へと大きく弾け拡がる。

 刺すような小刻みな揺れが数秒間身体を襲う中、膨らんだ紫色のエネルギーはその後収縮して行った。

 そしてエネルギーが拡がった処にあった巨大ゴーレムの頭と胴は消失しており、残された手足の一部がドスドスと地面に落ちる。


「わっ、我輩の護六鎮魂がー!」


 悲鳴を上げるオヤジ。

 よし、取り敢えず倒せた。あとは木陰から逃げ出そうとするオヤジに矢を射るだけなんだけど。


 私に安堵の表情はない。

 それは今しがた使った魔宝石の力、負の力の代償が大きい事を知っているからだ。

 譲り受けてから前に一度だけ試しに使った事があるが、その時は滝から落ち半日間激流の中で格闘した。

 そして今、消えたかのように見えた負のエネルギーが前回と同じように、私の身体の方へと少しずつ戻って来ている感覚がする。

 私はこれから何が起きても対応出来るように弓矢を手にして猫足立ちで最警戒をした。

 しかし不意に魔宝石を使用したことによる疲労に襲われてしまい、思わずその場に片膝をついてしまう。


『ゴチ!』


 ちょうど膝をついた草むらに石が転がっており、私は膝小僧を強打した。


『バサバサッ!』


 そのかがんだ状態で苦悶の表情を浮かべていると、どこからか風に運ばれてきた一枚の紙が私の顔を覆い被さると視界を遮る。急いでその紙を取り除き辺りを警戒する中ふと見てみると、『ゴーレムでハーレム、うはうは計画』と汚い字で書かれていた。


「オヤジ~、こんなくだらない事のために」


 私は度重なる不運に脅えながらも、弓を引き絞り男が隠れている大木に狙いをつける。


「弓使いー、また会おうぞ!」


 そしてオヤジが木陰から飛び出した。

 と同時に男を仕留めるため、矢を放つ。

 しかし放つ寸前に左太腿に激痛を感じ僅かに手元が狂ってしまった。

 僅かな擦れであったが距離が離れていたため、矢がオヤジの横を通り過ぎる頃にはオヤジから大きく離れてしまっていた。

 そこで私は慌てて次の矢をつがえようとするがーー。


「逃がすかっ!」


 隠れて応援してくれていたマリモンが、手にしている木刀で男の頭を正確に打ち抜いた。

 そして地面に倒れてピクリとも動かなくなったオヤジを、そのまま縄でぐるぐる巻きにしていく。

 その隣ではエミリアが私に向かって手を振る姿があった。


「あの子達」


 私はフラフラしながらも歩みを始める。そして巨大ゴーレムの残骸横を通り過ぎようとしたとき、何か煌めく物が視界に飛び込み思わず脚を止めた。


「……これは、白銀大山猫シルバーオオヤマネコの子供!?」


 その白銀に煌めいて見えたそれは、別れの山脈に生息する白銀大山猫の子供の体毛であり、横たわるその仔は既に息をしていなかった。

 私は思いがけない現状に頭を整理する。


 もしかしてこの巨大ゴーレム、白銀大山猫が巣穴として使ってる岩場で作られた!?


「ミケ姉―、どうしたのー?」


 ゴーレムの残骸付近から中々動こうとしない私をエミリアが遠くから呼んでいたが、この時の私はまだ気づいていない。


 白銀大山猫、彼らは夜行性の動物、親は狩りに出ていなかった!?

  ……前回に比べて魔宝石の不運度合いが低いと思ってたけど、……まさか子の匂いを辿って山から降りてくるとか!?


「ミケ姉、早く戻ろっ」

「エミリア!? 」


 心配になって側にまで迎えに来たエミリアの姿を確認して、血の気がサッと引いて行く。


「あれ? ……子猫ちゃんが」


 エミリアが地に伏して動かない白銀大山猫の子供を見て言葉を失っている時、私の双眸はこの場に現れた、招かざる客を捉えていた。


『ニィギィヤャャヤァァァアアー!』


 その突然の金切り声に辺りが一瞬で緊張感に包まれる。

 闇夜に浮かぶ一対の金色の瞳。虎ほどの大きさがあり6本もの足を持つ獣。白銀である長く伸びた全ての毛を逆立て私達の前に現れたのはそう、成体の白銀大山猫であった。

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