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ゴーレム合体、護六鎮魂!

 私は少年と少女に自己紹介を行った後に広場を離れると、昼寝を取り戻すため一度宿へと戻る。そして陽が暮れた頃、町に唯一ある酒場兼レストランを訪れていた。

 私が座る丸テーブルに同席しているのは、昼間の少年マリモンと少女エミリアである。

 店員さんがテーブルへと肉中心の料理を運んで来る。


「はい、私のおごりだよ。じゃんじゃん食べてね」

「ミケさん、ありがとうございます!」


 丁寧にお礼を述べるエミリアと、ソッポを向いてどこか余所余所しい様子のマリモン。

 少年よ、若いな〜。

 そんなこんなで私達は運ばれてきた料理を囲い食べ始めた。

 因みにエミリアが子猫を連れて来ていたため、私は小皿にミルクを注ぐと床に置く。

 すると子猫は待ってましたと言わないばかりに小皿のミルクをペロペロと舐め始めた。

 つぶらな瞳がかわゆすです。

 とそこで、マリモンがチラチラと私に熱い視線を送っている事に気付く。


「少年よ、どうしたのだ?」


 私が戯けて言うと、あろうことかスルーするマリモン。そしてマリモンは、お肉を頬張ったままクチャクチャ言わせながら私に尋ねる。


「……お前は、いつまでここにいるんだ?」


 私のキレにくい堪忍袋の緒が切れちゃいました!


「マリモン、お姉さんに向かってお前はないでしょ~が~!」

「いぃーてててててっ!」


 私に右耳を掴まれ上方へと引っ張られるマリモン。


「私にはミケって名前があるんですけど!」

「わっ、わかったからミケ、手を離して!」

「呼び捨て!?」

「ミケーーねぇ、ミケ姉!」

「よしっ」

「ち、ちぎれるかと思った」


 マリモンは思いっきり上に引っ張られた耳を、しかめっ面をしながら両手で大事そうに押さえる。

 そんな私達のやりとりを見ていたエリミアが、口元を手で押さえクスクス笑っている。

 そして必要以上に痛がるマリモンの代わりに、エミリアが再度質問をしてきた。


「それでーー、ミケ姉はいつまでこの町にいるのですか?」

「レギザ兵が戻るまでの契約なんだけど、二日前に水晶で本部に連絡したら近くで暇してる奴がいるみたいで、そいつが明日には私の代わりとして来るんじゃないかな?」

「えぇー! そしたら明日にはお別れですか?」


 がっかりした表情を見せるエミリア。


「せっかく仲良くなったのにゴメンね。元々急な依頼だったし、まだ旅の途中なんだよね〜」

「旅、ですか?」

「そうよ〜」


 元気な表情で受け答えをする私を見て、エミリアも次第に表情を明るくしている。


「どこまで行かれるのですか?」

「目的地は決めてないんだ、さすらいの旅ってやつ。まぁ~時々本部からくる依頼をこなす腕があって、報酬を旅の支度金とかに当ててればなんとかなるんだよね〜」


 去年価格破壊が起こり、今では殆どの冒険者が手にしている水晶を取り出し、エミリア達に見せるようにして話す。

 そんな私を見て、突然含み笑いをし出したマリモンが口を開く。


「ミケ姉、ぜったい彼氏いないだろ?」


 マリモンの暴言によって、こめかみの辺りがピクピクと刺激されてしまいます。


「マリモ~ン。あんたは何度も痛い目に合わないと、分からないお馬鹿さんなのかしら?」

「も、もちろん冗談だよ。ミケ姉、まずは落ち着こう!」


 私を手玉に取ろうと試みる勇気ある少年を怒りながらも、私は腕組みをして考える。そして少しの沈黙の後に閃いた。


「そうね~マリモン。少年のくせに年上に向かってその偉そうな言葉使いは良くないわ」

「……言葉使いなんて、そうそう変わるかよ」


 眉間にしわを寄せ、口を尖らせるマリモン。

 ん、少し可愛い、じゃなかった。








「じゃ、とりあえず語尾に、『っす』をつけてみて?」

「語尾に『っす』? ……っすか?」

「マリモン、とってもイー感じになったよ」


 エミリアが胸の前で手のひらを合わせ喜ぶが、そんなマリモンは小首を傾げる。


「えー、でもカッコ悪くないか?」

「そ、そんなことないよ!」


 焦るエミリアの隣で、私はフォローを入れるためにポンッと手を打つ。


「あっ、そう言えば!」

「どうしたの、ミケ姉!?」


 私のわざとらしくない話の振り方に、エミリアが絶妙な相槌を入れた。


「レギザイール王国を築いたとされる英雄サージロットレギザは、たしか若いときの口癖で、語尾に『っす』を付けていたって聞いたことがあるわ」


 私は口から出任せをサラリと話す。

 エミリアも聞いたことがある、と私に口裏を合わせ続いた。


「ほっ、ほんとーーっすか!?」


 なんだか素直なマリモン見ていたら、彼奴シグナを思い出してどんどん虐めてあげたくなってきてます。

 暫く会ってないけど、元気してるかな〜。

 そんなこんな考えていると、エミリアからの指摘が入ります。


「ミケ姉、……顔が怖いです」

「へっ?」


 窓に映る自身の顔を見て絶句、知らず知らずの内に口元が歪んでしまっていたようです。

 そしてマリモンはと言うと、めでたく口調が私色に染まったのでありました。



 ◆ ◆ ◆



 それから暫しの時が流れる。

 太陽が完全に沈み代わりに星々が辺りを照らす頃、ジャジャリスの町から遠く離れた森で、月明かりがその者の巨体を明るく照らし出す。

 そして巨体が移動する度に大地が大きく振動し、驚いた森の鳥たちが一斉に空へと飛び立って行った。


 別れの山脈方面から樹海を南下するその主は、二階建て民家ほどの巨大なゴーレムであった。

 そしてそのゴーレムを操作する者は、昼間弓使いミケにこてんこてんに成敗された、口ひげの両端を上へと跳ね上げさせマントを身に纏っているあの男であった。

 男は巨大ゴーレムの後ろをブツブツ言いながら、徒歩で移動している。


「……これまで費やしてきたこの時間を否定させないため、そして計画を一度仕切り直す意味でも……。我輩の無様な姿を見た、あの村の者達の記憶を塗り替えてやる! そうだ、我輩の崇高な計画にあの弓使いも組み込んでやろう!」

『(ニャギィー、ニャ……ギィィ)』


 ん?


 ゴーレムの巨大な足音に紛れなにかの鳴き声が微かに聴こえたように感じた男は、周辺に広がる暗闇や背後を頻りに見回す。そして不気味な雰囲気が漂う森の中、微かな音も聞き漏らさないよう耳に全神経を集中させてみるが、何も聞こえない。


 ……気のせいか。


 そう考えながらも、星空に浮かぶ満月が不気味に赤みを帯びていたこともあり、男は辺りの警戒を緩めることなく巨大ゴーレムの後に続いた。



 ◆ ◆ ◆



「はぶぅぁ!」


 私の左半身に痛みが走る。

 目を開くと、暗闇の中、そして視界の殆どが床であった。

 どうやら宿屋のベットから転げ落ちたようである。


「うわっと」


 ベッドが、いや部屋全体が轟音と共に小さく跳ねた。

 木製の床がまるでスプリングに変わったのではと思わせる程のその揺れに、私の身体も小さく跳ねる。


「な、何事!?」


 状況が掴めずに一瞬慌てたが、一定のリズムで聞こえる巨大な音と振動、そして窓からチラリと見えたのち角度的に見えなくなった巨大なゴーレムの姿に、私の頭が落ち着きを取り戻して行く。


 もしかして!


 椅子に掛けていた服にさっと四肢を通し、壁に立て掛けておいた弓矢を手にすると、枕元に隠していた護身用の短剣をベルトに挿し急いで外へと飛び出す。


 町中にけたたましく警戒を報せる鐘が響き続ける。

 町の人々は壁の外からゆっくりとだが、確実にこちらへ迫って来ている巨大ゴーレムの姿を目にして慌てて家から飛び出し、持ち出した荷物を手に逃げ惑っている。


「あっ、ミケ姉!」


 人混みの中を一緒になって移動していると、物陰に隠れていたマリモンとエミリアが私の名を呼んだ。

 私はすぐさま身を隠すようにマリモン達の隣に飛び込む。


「遅いっす! もしかしてこの騒ぎの中でも寝てたんっすか!?」

「ま、まさか。そんなわけないでしょ」


 私が引きつった笑いを見せていると、町中にまるで巨大な岩が投石機によって落とされたような強烈な衝突音が身を震わす。

 そして外敵から人々を守るために設置されている壁が破壊され、その破片が礫となって町に降り注いだ。

 そして町へと侵入をした巨大ゴーレムは手当たり次第に建造物を破壊し、町の中心へと移動を開始する。崩れた建物から舞い上がる砂埃で巨大ゴーレムの姿が見え隠れする中、建物が激しく壊れた爆音が辺りに響く。


「私たちの町が!」


 エミリアの悲痛な叫び声の中、巨大ゴーレムの破壊行動はなおも続く。そして風が別れの山脈方面から私達がいる町の中心に向かって吹く。砂埃で目を開ける事が出来ない。

 そして砂埃が過ぎ去り瞳を徐々に開いていくと、巨大ゴーレムがすぐそばにまで来ていた。

 昼間見たストーンゴーレム一体分はある巨大な拳をゆっくり大きく頭上まで振り上げてると、そのまま民家目掛けて真下に振り下ろす。雷がその場に落ちたかのような轟音が響き渡るその一撃で民家は跡形もなく粉々になり、私達が身を潜めているところまで多くの小石が飛んで来た。


「ハッヒャッヒャッ! どうだ、凄いだろ! お前等の心に、我輩のウゥールトラ超ドォ級秘奥義、ゴーレム合体『護六鎮魂ゴロクレム』の恐怖と格好良さを刻み込んでくれるわ!」


 オヤジの声はするがオヤジ本人の姿は見えない。

 そしてその声を耳にした私の手は、怒りのあまり震え出していた。


「やっぱりオヤジか、懲りずにまた来たのね!」


 とそこで、隣に潜むマリモンから歯軋りする音が耳に届く。


「クソッ! 俺達の町をメチャクチャにしやがって!」


 マリモンは今にも飛びかかりそうな勢いで、鋭い眼光で手にした木刀を握り締める。


「マリモン、ちょい横にずれて!」

「うわっ」


 射線を確保するためマリモンを背中で押し、矢の一本を口に銜えると更に二本を右手に掴み目を眇めて弓を構える。

 巨大ゴーレムの弱点であろう文字を探すが見当たらない。

 オヤジの奴、一丁前に学習をしているようです。それならーー。


「喰らひなはい!」


 私が矢継ぎ早に放った矢が三本ともゴーレムの頭に命中する、が突き刺さるのみで破壊は出来なかった。


「出てきたか、弓使い!」


 頭部に刺さった矢に気付いたオヤジが巨大ゴーレムの操作を一時中断した。そして首のないゴーレムの頭部のみをゴリゴリと砂を落としながら動かし始める。

 まるでゴーレムが辺りを見回しているように。


 もしかしてあのゴーレムの頭部に嵌め込まれた四つの宝石みたいな物が、瞳の役割を果たしているとか?

 原理として可能性であるのは召喚魔法の要領で自身をあのゴーレムに重ねているか、あの宝石が水晶のような役割を果たして映像を取り出しているか。

 ん〜と、オヤジの声が聞こえる時点で召喚の説は薄くなるか。


 私は大きくため息をつく。

 兎に角見つけるのに時間がかかるかもしれないが、オヤジを探し出して操作解除させたほうが危険が少なくてイーな、と考える私であったが、それだとその間私を探す巨大ゴーレムが暴れて町の被害が拡大するかもしれない。

 なにか良案はなかろうか?


「……って、ちょっ!」


 木刀を力強く握り締めていたマリモンが物影から飛び出したところで、私は腕を伸ばしギリギリのところで捕まえ制止させる。

 すると振りほどこうとするマリモン。


「はなせっミケ! 俺がアイツを倒してやる!」

「落ち着きなさい!」

「どうやって落ち着けってんだよ!」


 私はマリモンの正面に回り込むと、両手で彼の両肩をしっかりと掴む。


「マリモン、戦場では冷静さを欠く人のことを、命を粗末にする愚か者と揶揄するのよ。とにかくここは、……私に任せてくれないかな?」


 私の普段見せない双眸、力強い眼力の迫力に思わず頷くマリモン。


「でも、どうするん……っすか?」


 私は乾いた笑みを作る。


「予定変更! あのゴーレムを破壊するわ」

「えっ、でも、……弓なんかの威力じゃ!?」

「言ったわね~、でも普通ならそうなるか。でも大丈夫、とっておきを使うから」


 そう言い胸に手を当てると、マリモンとエミリアに向かい再度笑顔を作って見せた。

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