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殺意に満ちた追跡者

 逃亡生活は2日目を迎えていた。


 シグナが逃亡したその日、号外が各地で配られ勇者カザンが亡くなった事が全世界に流れた。


 そしてシグナも街道に捨てられていたその一枚を入手する事に成功する。

 内容はカザンが亡くなり、英雄の墓所に埋葬される事が決まった事。

 そして犯人であるシグナが逃走しており、目撃情報に十万G、死んだ状態でもいいので連れて来れば一千万Gが支払われる事が明記されていた。


 一先ずこの記事を見る限りでは、シャルルが無関係だと言うことになっていて安心する。


 しかし腹が減ったな。

 ぼうぼうに生えている草むらに寝転がる。

 この2日間水は何とかなったが、食事は木の実以外ろくな物を口にしていない。

 近くにコロキノでも生えてればいいのに。……不味い、考えたら余計に腹が減って来てしまった。


 これからどうするかだが。

 あれから色々と考えたが、レギザイール軍の奴らは信用しない方がいいだろうと言うことと、真犯人がレギザイールの権力者である事ぐらいしか思いつかない。調べようにも一人では危険が高すぎるし。

 八方塞がりである。


 どの街も手配書が出回っており町はおろか、街道にも近付かないようにしなければならない。

 このまま、カザンの仇を取れずに終わってしまうのか?


 ……人の気配がする。だいぶ近い!


 フードを目深に被り、いつでも移動出来るように猫足立ちになる。


『トキュン!』


 矢がこちらに向けて放たれた。

 巻いたレギザ兵達に追いつかれたか!

 草むらから飛び出し駆け始めると、その先を読まれ発射された次矢が目の前を通り過ぎていく。中々の腕前だ。

 そして矢が発射されたであろう場所へ目を凝らしてみると、そこには見知った顔があった。


「ミケ……か」


 以前少しの間だけ共に旅をした事がある、傭兵団バレヘル連合に所属する女弓使い。

 奴らも駆り出されているのか。そりゃそうか、あいつらの仕事は治安維持に賞金首稼ぎ。しかもシグナは勇者カザン殺しの大犯罪者である。

 額が額だけに首を狙わない理由が見当たらない。


 しかしこいつとは戦えない。

 視線を逸らすと同時に風を解放し地を駆ける。


「待ちなさい!」


 殺気と共に矢が放たれた。

 その矢を振り向きざまに魔竜長剣ドラゴンソードで叩き落し、仕方なくその場に足を止めミケへと向き直る。

 ミケは今にも噛みつきそうな勢いである。


「シグナ、あんた何ガン垂れてるの? それにしゃるるんは?」


 ……しゃるるん?

 ……もしかして、ミケは知らないのか?


「ミケはなんでこんなところに?」

「この時期にこの森にいるって事は、マンドラゴラ狩りしかないでしょ? なんか文句でもあるの?」

「いえっ、滅相もないです」


 ミケの背中に背負っているリュックからは、マンドラゴラの姿がチラリ。

 なんかペースが狂うな、そして相変わらずの自由人のようである。


「それでしゃるるんは?」

「一緒じゃない……てゆうか、本当に何も知らないんだな」

「……バカにしてるの?」

「いや、そうじゃなーー」

「しっ!」


 人差し指を立てるミケ、話の途中で遮られてしまった。


「……誰か近づいてくる」


 ミケの呟きに耳をすませるが何も聞こえない、そしてミケの目線がシグナの足下に向けられる。


「シグナ!」


 言われて見れば、たしかに足下の草むらに魔力の流れが!

 飛び退くと今までいた場所から氷の刃が飛び出した。

 そして両手に各々剣を持つ男が迫ってくる。

 あいつは!

 両の剣を交差させ力勝負を挑んでくる男。そして二人は剣を交え鍔迫り合いの形となった。


「おいシグナ、どういう事だ説明しろ!」

「……クロム、待ってくれ」


 その言葉に、弓に矢を番えていたミケが間の抜けた声を出す。


「え? 知り合い?」

「あぁ、以前な」

「知り合いにいきなり攻撃とか、頭イカれてるの?」


 いや、ミケさんも人の事言えないと思うんですけど。


「女はすっこんでいろ」

「……なんですと?」

「うわー、待った待った。話がややこしくなるからその、ミケさんはちょっと待ってて下さい。あと……クロムも落ち着いてくれ」


 クロムはそれからこちらを暫く睨みつけた後、無言で剣を収めた。

 そして呟くように口を開く。


「先生が死んだっていうのは本当なのか?」


 そう、あれから嘘じゃないのかと何度も考えた。そしてあの号外を見て確信する。

 シグナ達を嵌めようとした奴が、カザンが死んでいない状態でああまで大々的に発表すれば、自身を窮地に追いやる事でしかない。つまり確実に死んでいる事実を握っているからこその発表なのだ。


 ……そう、カザンは本当に死んでしまったのだ。


 見知った顔ぶれに合い緊張が解けてしまったのか、今まで押さえ込んでいた感情の渦が、津波のように押し寄せる。声に出して泣くことは我慢出来たが、涙が頬を伝っていく。

 ただ今はまだ感傷に浸るのには早すぎる。

 奥歯を力の限り噛み締めて、カザンを殺しシグナ達を嵌めた何者かに憎しみをぶつけるよう、悲しみに暮れる心を真っ黒へと一気に塗りあげていく。

 おかげでなんとか受け答えが出来るぐらいにまではなった。

 そしてクロムに告げる。


「カザンは死んだ」

「何故なんだ説明しろ!」


 胸ぐらを掴んでくるクロム。


「俺もわからないんだ、そしていつの間にかカザンを殺した犯人が俺という事になっていた」


 その話を聞いていたミケが割って入る。


「カザンって、勇者カザンが? 死んだの?」

「あぁ」


 そこにクロムが割り込みなおす。


「犯人はお前ではないのか?」

「俺は、犯人じゃない!」


 手を離したクロムは、大きく息を吐くと俯き、疲れたように言葉を漏らす。


「…………そうか」

「信じてくれるのか?」


 するとクロムは、また睨みつけるようにして顔を上げる。


「お前みたいな青二才に先生が遅れをとるはずがないからな。あと馬鹿なお前の事だ、どうせまんまと陥れられてしまったのだろう?」


 言葉もない。


「して犯人に心当たりはあるのか?」

「いや、……ただこんな手の込んだことが出来るのはレギザイール軍の上の人間か、もしくは国の権力者の誰かのはずだ」

「して、お前はこれからどうするのだ?」

「カザンの仇を討ちたいが、どうしたらいいのか……」

「そしたら、お前は俺様に付いて来い。ゼルガルドに戻るぞ」

「いいのか?」

「真犯人を捕まえるにはレギザイールの情報が少なすぎる。お前はそのために仕方なく連れて行くのだ、勘違いをするな!」

「すまない、クロム」


 ミケが肘でツンツン突ついてくる。


「シグナ、このツンデレさんはどこのどなた?」

「なんだ女、それは俺様の事をいっているか?」

「そうだよ〜。……ふふふっ、あとあんた、ずばりホモでしょ?」

「な、なんだと!?」

「それは言い過ぎたかな? 男と女、どちらでも行ける口でしょ?」

「おのれー、言わせておけば」


 クロムが双剣をミケへと向ける。


「あれ〜、否定を忘れているみたいなんですけど? それに暴力で訴えるなんて器の小ちゃ〜な男ね」

「ちいさ!? ……いや、たまたま手が握ってしまっただけであって……」

「まあいいわ。ところであんた、どうしてシグナの場所がここだとわかったの?」

「……斬り捨ててくれる」

「え? そこ怒るとこなの?」

「うるさい!」

「あっ、ちょっとたんま!」


 ミケは立てた人差し指を、詰め寄るクロムの口元に押し当てる。


「なっ何を!」

「しっ! ちょっと黙ってて」


 ミケは空いた手を耳元にやり、聞き耳を立てている。


「たくさんの足音が聞こえる」


 その時複数の人影を森の片隅に捉える。

 今度こそ追っ手か?


「クロム、すぐにでもゼルガルドに連れて行って貰ってもいいか」

「ああ、ついて来い」


 駆け出すクロム。


「ミケ、一緒に来るんだ」


 ミケの手を取ると、返事を待たずに走り始める。


「ちょっ、どういう事?」

「詳しくは後だ、ここにいたらミケも疑われる可能性がある」

「わっ、わかった」


 その2日後、シグナ達は無事ゼルガルド王国へと足を踏み入れる。


 それから更に2日後、カザンの遺体は滞りなく英雄の墓所へと保管されることとなった。


【お知らせ】

四章は次のエピローグで終わります。

それと挿絵を一枚入手しました。★印のところにありますので、良ければそちらもどうぞ♪

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