ミレディとのお喋り
どこから声がするのだ?
声の正体があの者ならば、枝を移動して来る可能性もある。
上方の警戒も怠らずにいると、笑い声が止まった。
そして不意に正面から視線を感じ目を凝らすと、乱れた黒髪と一緒に顔を半分だけ出してこちらを覗く包帯女、黒衣の女の姿があった。
そしてーー。
「オモチャ、みーつけた」
黒衣の女が言葉を発した。
人としての意識があるのか?
この者は魔物になっていない?
「鈴守人が、殺られてる」
そう言うと、足元で今だにビクビク動いている死者に視線を落とす。
この者が人ならば、色々と聞き出せるかもしれない。カマをかけてみるか。
「お前がミレディなのか?」
黒衣の女は静かに笑い出すのみで答えない。私は続けて質問をする。
「この世界を作り出したのはお前なのか?」
黒衣の女は笑いを止めない。
「魔宝石の力を使っているのではないのか?」
笑いがピタリと止まった。そしてーー。
「へぇー、ものしり」
黒衣の女は言い当てられた事を、むしろ喜々とした声で返した。
「その力は私を倒すために使用しているのか?」
黒衣の女はまたウフフフフと笑い声をあげ答えないのかと思ったが、予想とは裏腹にそのあと口を開いた。
「それは口実。皆を逃げれないよう閉じ込めて、いっぱいいっぱい、いっぱい遊ぶの」
今までで一番大きな笑い声をあげる。その声が収まるのを待ち、更なる質問を投げかける。
「お前は何故、魔物になっていないのだ?」
「……それは、封じ込めているから」
それはつまり。
「……解除魔法」
私がポツリと漏らした言葉に、黒衣の女はニヤリと笑みを作る。
この者は魔宝石の魔物を封じ込めているのか?
解除魔法は文字通り魔法を封じ、それを解除する事により解き放つ魔法。
と言う事はこの死者達、さらにセスカの悪夢や古城の歌姫も、現実に肉体を持たない魔力体のような存在と言うことになる。
そして黒衣の女は世界の主ではない。この世界を作る上での土台、器のような存在と言うことになる。
即ちこの者自体が世界。
しかし魔宝石の魔物を封じ込める。
レギザイール軍はなんて危ない事に手を出しているのだ。
自国や他国を守るために武力を求めるのは当然ではあるが、これでは他国に見境がないと言われても返す言葉がない。
そして『星の魔宝石』の封印が解かれ、これから更なる知識がレギザイール軍に流出する。
「色々知って、いるんだ。魔宝石の子達を封じるのは、解除と同じく魔力生命力を使う」
何故それをわざわざ教える? 冥土の土産と言う事なのだろうか?
「うふふ、知識を得ると、頭が良くなる」
光彩のない瞳が、怪しく光る。
「頭の良い人の脳みそ、新鮮な状態で、食べてみたい」
そう言うと黒衣の女は、糸を引きながら涎を垂らし出す。そして右手には懐から取り出した長細い針のような棒を三本、左手には何も握られていないがこちらに翳すそこから、邪悪な魔力を溢れさせていた。




