水晶を探せ!
相手が持つ水晶を奪い取り、そこからまた書き換えて使用するのはかなりのリスクが伴う。
ここは考えを次へと移行させ、水晶の破壊を優先させるべきである。
そのためにはまず誰が持っているのかを、見極めなければならない。
周囲を注視する。
相手も早く通信をしないと計画が失敗すると考えるはず、いつか必ず誰かが水晶でコンタクトを取り始めるはずなのだ。
あそこか!
ここから最も離れた場所にいるバンダナを巻いている体格の良い者が、腰袋から水晶を取り出していた。
それを確認すると同時に地を蹴る。
「馬鹿野郎!」
指揮官の怒鳴り声。
その意味に気付いた男達が進行方向に立ちはだかる。
新手の敵は三人。
その内の二人が早くも間合いを詰めて来て剣を振り上げようとしている。
私は相手との間合いに入る寸前、踏み締めた足をすぐには前には出さず、その片足で全体重を踏ん張る事により僅かにだけ体を止めたのち、すぐさま次の一歩を出す。
その動きに釣られワンテンポ遅れてしまった男達へ、次々に大剣で斬りつけていく。
その後方にいた男は仲間が倒されるのを目の当たりにして、足を止めると一度後ろへ飛び間合いを広げようとする。
その動きは好都合とばかりに、こちらもその男からわざと距離を取るようにバンダナ大男に向かい駆けると、それに引っ掛かった男がこちらに向かい一歩を踏み出した。
そこへ重ねるようにこちらも間合いを一気に詰め、三人目の男を斬り捨てた。
『トォヒュン』
『トォヒュン』
『トォヒュン』
後方から矢が放たれる音が連続して聞こえた。しかし確認して防ぐ余裕は無い。
勘で横に躱しながら身体を屈めバンダナ大男に向かい詰め寄っていくと、トスッと一度音がすると共に背中に衝撃が走た。
前方のバンダナ大男は焦りながらも水晶を袋に戻すと、両手で肉厚の曲刀を握り締めこちらに向かって振り下ろす。
激しい金属音が一度だけ鳴り、大剣と曲刀が交差すると、両者互いの顔を近付け鍔迫り合いとなる。
押し合う中、薬指とは別に左腕の感覚が無くなってきている。昨日の傷口である左腕に巻いている包帯は、いつの間にか真っ赤に染まっていた。
そして力比べの結果、私は負けてしまい後方へよろめいてしまう。
力勝負に勝利したバンダナ大男は、曲刀をもう一度大きく振り上げる。
私はそこに割り込ませるために必要最小限の動きで大剣を身体に引き寄せる。そして半歩だけ踏み出し半身になると、一気に重心を落とし身体の全てを伸ばすようにして、バンダナ大男の心臓目掛けて突きを繰り出した。
そして心臓を貫く大剣。
バンダナ大男は曲刀を振り上げた状態で後方へよろめく。
私は即座に詰め寄ると、バンダナ大男の腰にぶら下がる袋を上から叩きつけ中の水晶を粉々に打ち砕いた。
これで他に水晶がなければ、シャルル君は一先ず安全だ。
しかし、シグナに危険を知らせる事と黒幕の事、知らせないといけない事が残ってしまった。
まだまだ死ねないと言う事か。
しかしそうなると問題は逃走経路である。
生存確率が一番高いのはリトの街に逃げ込む、だがこれは多くの無関係の人が犠牲になる可能性があるため却下だ。
残るはレード山脈方面の逃走になるわけだが、……撒くには谷底に落ちるしかないか。
先程の炎の魔法で草木が静かに燃える中、レード山脈の上空は真っ黒な雨雲で覆い尽くされていた。




