魔力容量
シャルルのプラス要素と言えば、ユアンが本気で決闘をしているが、死に物狂いではないぐらいである。
このまま指を咥えて見ているしかないのか?
いっそ負けるのであれば、シャルルが魔力を消費しなければ大事に至らないのに。
そんなシグナの心配を他所に、眼下のシャルル達は依然睨み合ったままである。
壁を背にしたまま僅かに横へ移動しているシャルルに、逃がさまいと鋭い眼光で付かず離れずのユアン。
そして第二ラウンドの幕が上がる。
先に動いたのはシャルル。電撃の剣を持つ右手が前にくるように身体を横に向けた半身の状態で構えると、剣の切っ先をユアンに定める。
そして水面に落ちた鳥の羽の如く、軽やかなステップで間合いを半歩だけ詰めた。
そこは剣を伸ばせば体に触れる、ギリギリの境界線。
そしてシグナの心配を他所に、シャルルは電撃の突きを放った。
『バチバチィ!』
光と同時に電撃が流れる乾いた音が鳴った。
それをユアンは片足を半歩下げ同じく半身の状態で構えると、これをきっちりと剣で防ぐ。
そこへシャルルはさらに三連続の突きを放つ。
その全てが電撃付きだ。
クリーンヒットしなくてもいい、ただ少しでも触れればそれだけで電撃を受けて大ダメージを負ってしまう必殺の剣。
ユアンは紙一重で躱すなどの危険な橋は渡らず、防御に徹しその全てをきっちりと剣で処理していく。
攻撃の手を緩めないシャルルは、それから出す全ての攻撃に電撃を乗せていく。
その成果が実り、壁際まで追い込まれていたシャルルは、ジリジリとだが空き地の中央付近にまで押し返していた。
あれ?
もしかして、………いや間違いない。
先程から光と共に電撃が流れる音が鳴り続けているが、そのタイミングはユアンに当たる直前に発生している。
ユアンがやすやすと後退を許したのには理由があった。
間近でその光と音を体感しているユアンは相当な脅威を感じ、かなりの神経を削って防御に当たっているはずだ。
一般的に魔具の剣は刀身に付加価値をつける物が多いが、その持続時間は短い。
電撃の剣で言えば、電撃魔法を発動させてから剣を振ったのでは、相手に当たる頃にはほぼ無くなってしまっている程に。
なのでベストは相手に当たると同時に流すことになるのだが、対象が動く物だとタイミングがかなり難しくなる。なのでだいたい振り始めたと同時に発動させるのが一般的だ。
しかしシャルルは、きっちりとユアンに当たるであろう瞬間に電撃を流している。これは一流の魔法剣士の技術である。
ただ残念ながら、先程からユアンを押しているかのように見えているが、逆に追い詰められているのはシャルルの方なのかもしれない。
この短い間にシャルルが電撃を使用した回数は8回。
俗に魔法使いと呼ばれる魔力を専門に扱う者達は、時間を必要とするが訓練で魔力容量を引き伸ばしている。数値で表すとだいたい30ぐらいまで。
変わって一般人から魔具を扱う程度の魔法剣士達の魔力容量は、体調で1〜2の誤差は出るが平均20ぐらいと言われている。
次に魔力の消費量だが、魔具を利用する事で可能な、詠唱なしで使える魔法、つまり今回は電撃の剣の電撃であるが、電撃を一度使用するたびに疲労と共に魔力を2消費してしまう。
そして一度でも魔力を使えば、肉体の強度と一緒に腕力や脚力などの全ての力が低下してしまう。
つまり一度でも魔力を使ったシャルルはそれを補うためにも魔力を使い続けなければ剣で対等に渡り合うのが難しくなり、ユアンからすると危険な勝負を仕掛ける必要がなくシャルルの魔力が尽きるまで防御に徹していれば、そのあと勝負を一瞬で決するであろうぐらいの有利な状況が訪れるのだ。
そのためシャルルは戦略の幅を残しておく意味でも、最後まで魔力を使い切らずに駆け引きの一つとして残しておく必要があるが、それでもそこまで行くと苦しい状況には変わりはない。




