肉を切らせて骨を断つ
チラリと見るがパッカラまでは遠い。そして道のりは困難、だがやるしかない。
地を掴むようにしっかりと足をつけ、後方にいるパッカラの方へと振り向きざまに素早く一歩を踏み出すと、それを見た男達も一斉に動き出した。
逃走のためのパッカラ、もしくは私の荷物の中にある物を手にさせないための動きであろう。
タイミング的にはタッチの差でこちらが先に水晶を取れるだろうが、そのあとは袋叩きにされてしまう。
しかしこの流れは、成功したと言った方が良いだろう。
私は真の目標物がある方へと向かうため、すぐさま後方に倒れながら更に反転、つまり正面に向き直した。
男達の誰かが放った雷魔法が、私とパッカラの間を通りすぎるのを尻目に前方に飛び込み、地面を前転しながらそれを拾い上げる。
それはザクトが所持していた、現在跪くザクトの傍に転がっている水晶を。
「っ、交信するぞ!」
「糞が! やらせるな!」
男達の焦りの声が次々に上がる。
今この手元にある水晶はザクト仕様になっている。これを使うにはだいたい十秒くらい、これを握りしめ私の仕様へと書き換えねばならない。その間水晶は左手で握っているため、右手一本での戦いになるのだが。
早くも血気盛んな者が突っ込んで来た。
私はリミッターを外す。
間合いに入った相手は、流れるように足を運ぶ。
そこへ肩に乗せた大剣を、テコの原理を使いながら全力で振り下ろす。
男は防御をしたらすぐに攻撃に移る体運びで、剣を横にして防ごうとするがそれは判断ミスである。片手での攻撃だと甘くみたのだろう。
大剣が男の剣へとズシリとのし掛かり、男の頭頂部から眉間のあたりまでを上から斬り裂いて止まる。
痙攣しながら重力に引かれるようにして崩れ落ちる男から周囲の者達へと意識を向け、大剣を引き寄せる。
「うっひぇー、すんげえ馬鹿力」
無駄口を叩きながら反時計回りに間合いを詰めてくる若い男。
『トォヒュン』
『トォヒュン』
いや、若い男は少しでもそちらに意識を集中させるために声をあげたのだ。
そうする事で出来た僅かな隙にねじ込むようにして、時計回りに迫る他の男が短弓での矢を命中させるために。
胸元に迫る矢は大剣で叩き落としたがもう一本の矢が右太ももに突き刺さる。そして畳み掛けるようにして斬り込んでくる若い男。
その剣に合わせるようにして大剣を振る、真似をした。併せて闘気を振る時と変わらないように発したので、相手は完全に騙された。私の大剣に衝突させようと振り下ろした男の剣が、大剣と言う遮蔽物もなくそのまま素通りでカザンの身体に迫る。
それを僅かに体を引くだけに留めたため、若い男の剣で胸板から腹部にかけての肉が縦に裂かれた。
しかし相手の損傷は私の比ではなかった。
急所である首に向かって同時に振った横薙ぎが、咄嗟に上体だけ後ろに引き避けようとした若い男の首の部分を大きく斬り裂く。
若い男はドパッっと鮮血をこちらに浴びせながら、そのまま後ろへ倒れていった。
左手の中の水晶が、段々と光を強くしていく。書き換えるまで、もうそこまで来ている。




