遣り遂げねばならぬ事
敵はこの場にいる者だけで20人はいる。今からこの者達から逃げきらなければならないのだが、それは酷く困難な事でもある。
そのため私は保険をかける意味で、別の二つの行動を成功させるために尽力しなければならない。
逆に言うならば、その二つが成功すれば、私が逃げ切ると言う事は然程重要ではなくなったりもする。
その一つとは水晶での通信だ。
時間は無い。隙を見て水晶の通信を行うのは限りがあるだろう、しかしやらねばならない。
通信目的はシグナとシャルル君を救う事。
シグナなら風がある。仮に連絡が取れなくても一人で何とかしてくれる可能性が高い。
しかしシャルル君にこのような手練れと戦うのは荷が重すぎる。そして既に敵の監視下にあると見て間違いない。しかし水晶を持たない彼女には直接連絡が取れない。
そこで王都にいる即座に動ける者に連絡を取り、すぐにでも保護してもらう。その際その者に賢者シュバイツァー宛の伝言も頼む。
そして直接シグナへも身を隠す旨を伝えきれば成功だ。
ただしここまで成功して、まだ50%くらいしか安全は確保出来ない。
そこで次に行う二つ目のやらなければならない事を成功しないといけないのだが、それは今この場にある全ての水晶を破壊する事だ。
しかもこれは、一つ目の行動が終わればすぐに行わなければいけない。もし速やかに行われなければ、敵に通信をされてしまい一つ目の行動が無に帰する可能性も出てきてしまうからだ。
そして私は、その後余力があれば逃げればいい。悔いがあるとすれば、力を貸してくれたリィーズへの弔いが出来ない事。
……、死んだら酒でも持っていくよ。
いつでもリミッターを外せる状態で、大剣を掲げ周囲に鋭く注意を配る。そして男達の動向を縫うようにして伺っていた時、一瞬我が目を疑う。
上方に立つ黒ローブ姿の者からどす黒い邪悪な魔力が溢れ出し、周りの空間が歪みだしたのだ。
目をパチクリさせると、その異様な光景が幻だったかのように無くなっていた。
今のは目の錯覚だったのか?
しかし直感が頭の中に響く、あの者は不吉だと。
その姿を見るだけで全身が寒気を覚える、……これは恐怖なのか?
「素直に降伏するつもりはないようだな。……切り刻んでやろう」
首を鳴らしながら、指揮官がこちらに歩み出す。すると周りの男達が波打つように動き始めた。




