罠
「カザン、ここからは傾斜がきつそうだ」
昼に差し掛かろうとする頃、パッカラに跨るシグナは獣道である草むらを抜け出し、後方のカザンに声を掛けた。
「よし、パッカラ達にはここで待っていて貰おう」
同じく獣道から出て来たカザンは、シグナ達の隣に並ぶとパッカラから飛び降りる。
リトの町を出発したシグナ達はパッカラを駆り、森を抜けレード山脈の裾野を進んでいる。
シグナの後ろに乗っているドリルの案内のもと、獣道などの道無き道を進んだおかげで、かなりのショートカットが出来ていた。
シグナとドリルもパッカラから降りると、カザンに続きパッカラの綱を大木に括り付ける。
さて、ここから蜥蜴人間を探す訳なんだが、まず村人が襲われたと言う地点に向かう事になっている。
その道すがら、猟師が以前から仕掛けていた獣用の罠に蜥蜴人間がかかっていないかも確認しながら。
また相手は人を追いかけ回すような奴である。向こうがこちらに気付けば高確率で勝手に現れてくれるはずだから、シグナ達は囮という役割も担っていたりする。
取り敢えずここら一帯を見回しておくか。
「カザン、ちょっと上から見てみる」
カザンに一声掛け、呪文の詠唱に入る。そしてーー。
「突風系高等魔法」
地を蹴り上へと垂直に飛ぶ。
一瞬で眼下へと移動した木々を、地図を片手に見ていく。
そして落下中に一度魔具の風を解放し、次に木の枝を何本か踏みつけ威力を殺してから地面へと降り立つ。
「ここらの罠には何も掛かってなかったよ」
「そうか、それでは遭遇地点に向かって進むとするか」
人が歩く事により踏み固められて出来た道をシグナ、ドリル、カザンの順で進んでいく。
「お兄ちゃん」
それから一時間程進んだ頃、不意にドリルから声を掛けられたの。
「ん? どうかしたか?」
「あっちから獣と血の匂いがする」
ドリルが指す方向は、地図上ではこの先にあるはずのトラップ位置と同じ方向であった。
道を外れ少し進むと、トラバサミに足を挟まれた巨大猪が横たわっていた。これだけならただ単に罠にかかったのだなと思うのだが。
「お兄ちゃん、食い散らかされてます」
「そうだな」
横たわる猪はすでに死んでおり、そして腹部がごっそりと無かった。近くにはこの猪の物であろう足と何本か骨も転がっている。
「ドリル、この山でこんな事しそうな奴に心当たりはあるか?」
「いえ、あと気まぐれ猪に天敵とかもいなかったと思います」
「ということは蜥蜴人間の仕業か」
「……匂いが続いてます!」
「その匂い、追えるか?」
「あっ、はい! 獣臭に鉄も混じっている特徴的な匂いなので」
そう言うとドリルは、鼻をクンクンと鳴らしシグナ達を導いていった。




