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案内役

 翌朝、シグナとカザンはパッカラを引きながら顔役であるヤードさんの屋敷を目指している。ドリルもジャガイモを卸す先が同じ方向であるという事で、三人一緒になって歩いていた。

 そしてヤードさん宅の門扉前まで辿り着いたシグナ達は、ここでドリルとのお別れをする事になる。


「短い間でしたけど、お世話になりました」


 頭を下げるドリルに、シグナはさっと手を差し出した。


「困った事があったらいつでも言って来てくれ」

「……はい!」


 そして二人がかたい握手を交わしていると、ヤードさんの屋敷の扉が僅かに開く。そしてその隙間から若い男が顔を覗かせた。

 たしかこの男は、昨日顔見せに訪れた時にヤードさんの後ろに立っていた小太りの男。


「昨日はどうも」


 男は挨拶を皮切りに事情を説明し出した。

 どうやらヤードさんは取り急ぎの用が入り、直接案内が出来なくなったらしい。

 そして所々印の付いた地図を渡される。


「私が案内したいところなんですが、如何せん私も行った事がない場所のため、足手まといにしかならないんですよね。よければ日を改めるか、この地図を頼りに探して貰えれば……」

「わかりました、あとは私達に任せて下さい」


 そのカザンの言葉に男は安堵の表情をみせる。

 しかしこの地図、丸印を付けてあるのは助かるのだが、その範囲が地図上に書かれているこのリトの町の十倍程の広さがある。

 討伐以前に蜥蜴人間を探すのに時間がかかりそうだ。

 溜め息が出てしまう。

 あぁ、この調子だとシャルルと花火の約束、守れそうにないなーと頭を抱えていると、不意に隣に立つカザンが後ろへ振り向いた。その顔つきは険しいものである。


「どしたの?」

「……気のせいか。いや、なんでもない」


 そう言いながらも、カザンはまだ立ち並ぶ建物の方に視線を彷徨わせている。

 シグナもカザンの視線に合わせて顔を動かしていると、不意に裾が引っ張られる。

 視線を落とすとそこにはドリルの姿があった。


「お兄ちゃん、僕が案内します」

「え、案内?」

「はい、レード山脈なら『気まぐれ猪』を追って何度か入った事があるので。あと抜け道とかもわかります」

「しかし、あまり報酬とか出せないけど、いいのか?」

「報酬なんてとんでもないです! 僕は行ったついでに山菜とか取るつもりなので、気にしないで下さい」


 ドリル、お前はなんて綺麗な瞳をしているんだ!

 眩しい、眩しすぎる。

 兄は眩しすぎてお前を直視出来ない!

 この子には幸せになって貰いたい。

 この子に不幸が降り注ぐ事があるならば、何がなんでも助けに行こう。


 そうしてドリルの好意に甘える形で、三人は蜥蜴人間退治にレード山脈へと足を踏み入れるのであった。

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