あん
「隙がまったくねー。シグ、凄いよこの人」
当たり前である。
スピード出世しているユアン=アプリコット。彼女は女性でありながらも、入隊からわずか三年で一等騎士の称号を手にしているが、それはただ単にその実力を認められているからなのである。
今年の剣舞大会では隊長職の者に負けはしたが高評価を受けており、次期隊長候補として数えられているらしい。
酷かもしれないが、そんなまさしく猛者と呼ばれるに相応しいユアンに対して、警備兵で少し目立つ活躍をしている程度のシャルルでは、戦う前から結果が出てしまっている。
しかもシャルルの背後には壁が迫り、先程のように後退して避けることはもう出来ない。またストームが起こした嵐のせいかはわからないが、壁際には多くの割れた壺やガラクタ等が散乱しており、下手すればつまづく可能性もある。
実力差があり、しかも地の利もない。つまり絶体絶命のピンチである。
先程ユアンが死にはしないと言っていたが、仮にシャルルが魔力を消費した状態で頭部に電撃を受ければ、失明や脳に損傷を受けることもあるかもしれないし、上半身だと心臓が止まることも考えられる。
なんだか考えれば考えるほど嫌な考えに行き着いてしまう。
電撃の剣を扱うシャルルの腕は未知数ではあるが、……ここは考えを変えたほうが良いのだろうか?
勝ち負けは関係なく、シャルルが無事この戦いを終える、もしくは中断させるための何かを。
かと言って直接間に入って決闘をやめさせるのは、二人の決意を侮辱する行為となってしまう。
それだけは絶対に出来ない。
考えるのだ、なにか良い案がないか! 何が起きれば中断させれるのかを。
案1、シグナがユアンに連れていかれる事が決まれば争う理由がなくなるのでは?
決闘が始まってしまっている今となっては、これはもう別問題となってしまっている。決闘を辞めさせる決定的ななにかが必要なのだ。
案2、空に浮かぶあの月が落ちてくる。
そんなことはあり得ない。
案3、他国が攻め込んでくる。
縁起でもない。馬鹿な考えはよそう。
案4、ストームが現れる。
なんだか人任せな考えになってしまっている。自力で出来ることを探すんだ。
案5、二人がこの決闘の勝負が決まったと思える、それこそ決定的な一撃を止める。
納得はしてくれるだろうが、剣を振る速度より早く間に入るなんて芸当、身近にいない限り呪文詠唱有りの風を纏っても不可能である。
案6、魔法で二人の服が突然なくなる。
そんな神魔法、あればウハウハであるが、もちろん使えなければ、誰かが開発したという噂も聞いたことがない。
あーダメだ。もう変な妄想しか思いつかない。




