ふきあいっこ
カザンの食事はそのままにして、二人でテーブルの上を片付けていく。
それから寝る前に体を拭いてサッパリするため、暖炉の前へ移動する。
シグナは上半身裸になると、暖炉の熱でぬるくなっているバケツ内の水に布を入れ湿らす。そしてそれを絞り、顔、首、腕と順番に拭いていった。
「寒いだろ? もっとこっちに来いよ」
「はっ、はい」
ドリルは服を着たまま、先程からこちらをチラチラと見るばかりで、中々手を動かそうとしない。
またなんか遠慮しているのかな?
まぁー取り敢えず。
「背中拭いて貰ってもいいかな?」
「はいっ!」
元気よく返事をしたドリルは、シグナの布を受け取ると一生懸命に背中を拭いてくれる。
礼を述べ返して貰った布を洗っていると、ドリルは服を着たまま背を向けやっと自身の身体を拭き始めた。
はぁー、やっぱり身体を拭くだけでも全然違うよな。サッパリサッパリ。
さてと、お返しをするか。
自身の布をバケツにかけ「背中を拭いてあげるよ」と申し出ると、ドリルは「汚れているので」なんて遠慮をし出した。そのため「汚れを落とすために拭くんだろ?」とドリルの布を奪い取った。
「服を脱ぐのだけはちょっと」
という事で、何故か服を着たままのドリルが、こちらに背を向ける形となっている。
静かな部屋にパチパチと薪が燃える音がする中、ドリルの腰の辺りから上着の中に手を突っ込む。
「……ぁんっ」
ドリルは小さく震え、声を漏らした。
「俺の手、冷たかったかな?」
「いえ、ごめんなさい。ちょっとくすぐったくて」
そして小さな背中を拭きあげたのち、仕上げに脇の辺りも拭いてあげようと、布を取る手を肩から下へと持っていく。
しかしドリルは腕をピッタリと体につけて脇を閉じていたため少しムキになってしまい、指を伸ばし尖らせた状態で手に布を巻きつけると、その隙間へ滑り込ませるようにして半ば強引に手を突っ込んだ。
「……ぁ、あっ」
シグナはそのドリルの喘ぎ声に驚いて、咄嗟に服から手を引き抜いた。
そしてこちらに振り返るドリルと目が合い、暫しの沈黙が流れる。
逡巡していると、少し涙ぐんでいるようにも見えるドリルが先に口を開いた。
「そこは……自分で、出来ますので」
「あぁ、そうだな。すまない」
何かいけない事をしてしまった気分になり、思わず謝ってしまった。
しかしなんだ、まだ喉仏が出ていない声変わりをする前の声のためだろうが、ドリルの声はまるで女性のようであった。
「布、返して貰っても……いいですか?」
そしてこの拭き合いっこは終わりを告げる。
それからシグナは、ドリルが寝るための部屋を案内するため、火を灯した燭台片手に廊下を進み、一枚の扉を開く。
「この部屋を自由に使ってくれ」
この仮宿、ずっと使われていなかったとはいえ、清掃などは定期的に行われているようで、誇り一つ落ちていない。
寝台も然りである。
シグナは部屋に置いてあったコップ型の燭台に火を移すと、ドリルに一声掛ける。
「それじゃ、また明日な」
部屋をさっさと出ようとしていると、「あっ、お兄ちゃん」っとドリルに呼び止められてしまった。
振り返ると、ドリルが胸の辺りで手をモジモジさせており、少し俯いてこちらを見ているため上目遣いになっていた。
「その、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
ドリルは満面の笑みを見せてくれた。




