別れと再会
シグナとシャルルの会話だけ、と言う短編小説を作ってみました。
良ければどうぞー ♪
朝になり、水晶を使いカザンと連絡を取ったシグナは、これまでの経緯を話しシャルルのパッカラレース本戦出場の許可を正式に得ていた。
そしてシャルル達は本戦の手続きや用意やらで、早目に現地入りするらしいのだが、それまでの2週間は今まで通り2人で任務をこなす事となる。
任務で様々な町を行き来していると、2週間なんてあっという間に過ぎ、そして別れの日となっていた。
「それじゃドコさん、シャルルを宜しく頼むな」
「おう、任せとけ!」
シグナはヒナイールの壁の外、多くの人の往来がある街道まで見送りに来ていた。
シャルルとドコユキフはレギザイール王都を目指すため、今まさにヒナイールから旅立とうとしている。
スライムのサーニャルはその姿が目立ちすぎると言う理由で、特大水槽の中に入って貰い、用意した屋根付きの荷車にそれを載せパッカラに引かせるようにしている。
「シャルルも無理すんなよ」
「もちの、ロン!」
こちらの心配を余所に、今日も元気一杯のシャルルさん。
「なにかあったら、すぐ連絡するんだぞ」
シグナは任務で忙しいため、このままいけば本戦の観戦は出来そうにない。
因みに水晶はシグナがこれまで通り所持し、何かあればドコユキフの水晶を借りて連絡を取り合うことになっている。
「シグは心配性だなー。それじゃ、いっちょ頑張って来ますか」
レギザイール王都に向けて歩き出す一行。振り返り手を振るシャルルにこちらも手を振り返す。
荷車の車輪が地面の上を転がる音と、揺れる度に軋む木の音が、少しづつ雑踏の音と混じり合って行く。
暫くその背中を見送っていると、不意にシャルルが踵を返し、トコトコトコと小走りで、こちらへ戻って来た。
「なんか忘れ物?」
「いや、そうじゃないんだけどー」
「ん?」
「……花火、見れるといいね」
「……あぁ」
シャルルはどこか照れたように俯きながら小声で言うと、柔和な笑顔を見せさっと前へ向き直り人の流れに溶け込んでいった。
……最終日の花火、それまでに任務があまり入って来ないか、丁度任務で王都付近にいれればいいんだけどなー。
とにかく、与えられた仕事をこなして行くか!
◆ ◆ ◆
それから2日後の事。
カザンから緊急連絡が入り、2人は一度合流する事になった。そして西の隣国、ドトール王国にあるレード山脈に向け、2人はパッカラに跨り移動を開始していた。
なんでもレード山脈まで狩猟に出かけていた麓の町の人が、山で蜥蜴人間に出くわしたらしい。
突然襲いくる蜥蜴人間にビックリしたその人は、足を滑らせて崖から転落。そのため蜥蜴人間から逃げる事は出来たが、落ちた衝撃で両脚を骨折する重傷を負ったらしい。
レード山脈の更に奥には活火山地帯があり、レード山脈深部の洞窟にはマグマが流れる川があるという。
そのため洞窟内部は常に暑く、蜥蜴人間達の住処となっていた。しかし彼等がいるのは洞窟の深部付近、洞窟の外にいるのは滅多にない事であるらしい。
レギザイール第三師団は他国の要所要所に派遣されている。
中でもレギザイールと同盟関係であるドトールには、戦争で弱体化している事もあり多くのレギザイール兵が駐留する国である。
それでも広大なドトール領内を守護するには人手が足りないらしく、今回こちらに話が回ってきたのであった。
休憩を挟みながらパッカラを走らせ、5日目の夕方にドトール領内に入ったシグナ達。辺りは沈みかける陽とその光を受けて光り輝く収穫前の稲穂で、視界の全てが黄金色に煌めいていた。
農業が盛んなドトールでは、広大な土地で作物を育てているため、農産物全てを壁で囲まむことは困難である。そのためこの美しい景色は、レギザイールでは見る事の出来ない景色と言えよう。
そして遠くに見える町まで、この金色に輝く道がずっと続いていた。
「あの町がリトの町だ」
「オッケー」
それからパッカラに揺られながら広がる景色に見とれていると、隣に並ぶカザンがこちらに手を出し止まれの合図を送って来た。そして手綱を引き、パッカラをその場に立ち止まらせる。
シグナも手綱を引きパッカラの足を止め、どうしたのだろう? とカザンの視線の先に目を移すと、町の方からこちらへ歩いて来る1つの影を見つけた。




