祝勝会
その日の晩、ドコユキフの地下研究所で、祝勝会が行われていた。
ドコユキフの音頭で祝杯をあげる3人。
特大の木の杯になみなみと注がれた酒を、ドコユキフは一気に飲み干すと腹の底からゲップを1つ上げる。
そして顎髭のないつるりとした顎を撫でながらう、シャルルの頑張りを褒め称えた。
「やるではないか」
「いやー、私は何もしてないよー」
シャルルは謙遜しながらも、水槽の中にいるサーニャルへコロキノを投げ入れる。
「しかし本戦出場とは、いい宣伝になりそうだ」
「宣伝?」
シグナはコロキノステーキに被りついていた手を止め、ドコユキフに向かって頭を傾げてみせる。
「あぁ、本当なら予選でやって良かったのだが、あまり効果がないだろうと思い留まり、結果お蔵入りになる所だったからな」
そう言いながら立ち上がると、棚に置いてあった正方形の厚みのない木箱を持ち上げ、こちらに運んでくる。
そして蓋を取り外しその中に入っていた布をむんずと掴み取ると、その布に書かれている文字をこちらに見えるように広げた。
その布は法被で、背中部分には『いい水晶作りまっせ!』とデカデカと書かれていた。
「シャルル、ドコさんが思い留まって良かったな」
「あっ、危うく命を、粗末に扱うところだった」
ドコユキフは「お前さんは面白い事を言うなー」と言い、更に続ける。
「これを着て本戦を走れば、大会を観戦している関係者へアピールが出来て、その後の売り込みがスムーズになるからな」
「頑張れよ、とその前に水晶を完成させないとだろ?」
「そうじゃった」
「もー、ドコはおっちょこちょいなんだから」
シャルルのエルボーを何度もこめかみに受けるが、ドコユキフは動じるどころか、ゴツくて短い腕をシャルルに差し出し、握手を求める。
「一緒に頑張ろうな」
思わず「えっ?」と固まってしまうシャルル。
「ドコさん、どう言う事だ?」
「ん? シャルル殿に来月の本戦も頼む、と言う意味なんだが?」
何か文句でも? と言った感じで、逆に訝しげに見られてしまった。
「本戦って、それはドコさんがジョッキーを務めないのか?」
「何を言っておる、予選と同じジョッキーじゃないと、本戦に出れぬわ!」
「いや、でも俺達も特務部隊の任務があるわけで」
「馬鹿者! パッカラファンを裏切るつもりか!? 」
おっ、怒られてしまった。
「でもシグー、私あの法被は着たくないよー」
「心配するでない、当日はちゃんと洗濯してから渡す」
「シグー、このドワは頭のネジがえらいこっちゃになってるよー」
「それは発明家にとっては褒め言葉じゃよ」
体を揺らしながら明朗な笑い声を上げるドコユキフ。
「ドコさん、こればっかりは俺達の独断では決めれないから、明日ウチの隊長に連絡を取って、それから法被も含めてどうするかを決めないか」
「シグ! 法被は絶対、きっ、着ないんだからね!」
「えっ、意外に気に入ってたりする!?」
「私はマゾだ!」
「ここで大胆発言が出た!」
「あと私はよく、嘘をつく」
「ついに認めた!」
プッと吹き出すシャルルに釣られて、同じく吹いてしまう。一頻り笑った2人に、手にした酒を飲み干したドコユキフが話を振ってきた。
「そんな事より、旅をしているのなら、何か話を聞かせてくれんか?」
「急に言われても、面白い話なんて出来ないぞ」
「うん、シグには絶対、無理無理」
「はっはっはっ、心配するな! 研究者にとっては、何が発明のヒントになるかはわからないもんだ。面白くない話でもドンと来いじゃ!」
ん? もしかして貶されてます?
「まぁ……そうだな、カザンと出会ってからの生活は驚きと発見の連続だったから、そこらの話ならーー」
そうだ、水晶作っているなら、あの話がいいかも知れない。
「ドコさん、セスカの悪夢は知ってるか?」
「おぉ」
それから3人は他愛のない話で盛り上がり、ドコユキフがシグナと同い年だったなどと言う、どうでもいい真実が判明したりしながら、長い夜は更けていった。




