勝負の行方
『ーー1番最初に森から抜け出したのは、ヤカクク! しかしすぐ後ろにはサーベルユニコーンの姿が。そして流星のパッカラも来たー! 最後の1枠はこの3頭で争われます!
最後の直線、この長い高原を制したものに本戦出場のチケットが、栄光のパッカラへの道が開かれます。そして流星のパッカラがサーベルユニコーンを抜き、ヤカククとの距離を詰めて行く!
もうここからは気力と……(ガチ、ゴロゴロゴロ)…………しっ失礼しました、あまりの驚きに水晶を落としてしまいました!
それにしてもなんだ、あの生物は!?
警備の間をすり抜けて魔物が侵入して……いや、皆さん、画面に写っている正体不明の生物の首の後ろには、籠に収まるジョッキーシャルルの姿が、今レース唯一の女性ジョッキーであるジョッキーシャルルの姿が見え隠れしております!
そして新たな情報が今入りました!
なになに、……どういう事だ? 情報元は……なるほど、そう言うことか。……皆さん、厳粛にしてお聞き下さい。命の継承が行われた模様です。繰り返しお伝えいたします、命の継承が行われた模様です。これはジョッキーカワダガからのコメントで明らかになりました事実。
あの謎の生物は、白灰髪から命のバトンタッチを受けたスライムであります!』
◆ ◆ ◆
サーベルユニコーンの脇をすり抜け、すぐに次の目標である巻貝角に標準を合わせる。
『次はどうするのー?』
頭の中に声が木霊する。いや、立場は逆か。そんな事はどうでもよい、ワシは次にするべきことを小僧に伝える。
『うん、わかった』
スライムの坊主がわしの指示に従い、首を前方方向に倒し、前のめりになる。
すると景色の流れが更に加速し、あっという間に巻貝角の奴の隣を通りすぎる。
『こっ、こわいよー』
『ビクビクするでない、お前の不安がジョッキーシャルルに振動となって伝わっとるだろうが!』
喝を入れスライムの震えを抑え込む。しかしこんなんであの技を出せるのか? いや、出さねばならない。そのためにワシはここにこうしているわけである。そしてあと僅かで、己の自我も消えてしまう事が何となくだがわかる。
今しか無いのだ!
『行くぞ小僧!』
『むー』
頬っぺたを膨らませる小僧に指示を行い、表面にパッカラ達のように身体中にハッキリとした体毛も具現させる。そして溢れでる満ちた魔力を操作する要領で、その全ての毛を風の抵抗に逆らわないように後ろに靡かせるように固定し、前脚を若干曲げる事により首を更に下方へと倒し、頭を地面と水平になるように固定させる。
そして駆けるワシと小僧は風となった。
その僅かな場所にだけ存在する暴れ狂う風は、流星の隣を吹き荒びそのままゴールへと突き刺さるようにして流れた。
静寂に包まれる会場に、中央でその歩みを止めるスライムコロキノ型改。
顔を見上げ会場を見回して見ると、1つ、また1つと拍手が鳴り始め、それはすぐさま万雷の拍手となり、ニンゲン達の大爆発を起こしたかのような歓声で、会場が一気に息を吹き返したかの様な熱気に包まれる。
そして自身が走り抜いた道を振り返ると、遅れてゴールした流星が、ちょうど目の前まで来て脚を止めるところであった。
しかしワシの意識は既に切れかかっており、既にあいつの姿を目に焼き付けるのみとなっていた。
ワシの目の前まで来る流星、いや我が子。その眼にはもう、憎しみの色は残っていなかった。
そしてあいつがボソリと漏らした、「カッコいーな」と言葉が聴こえたあたりで、ワシの意識は完全に溶けていった。
「……部普普、部吹吹府不不?」
「符流流流留歩世歩四、符流流留歩世歩四」
「……部吹吹」
こうして第65回パッカラレース予選三組は幕を閉じた。
◆ ◆ ◆
【レース結果】
一位、ガトードラゴン(本戦出場)
二位、スライムコロキノ型改(本戦出場)
三位、流星のパッカラ
四位、ヤカクク
五位、サーベルユニコーン
六位、アーマーホース
七位、ヌヌードラゴン
途中棄権、前回覇者の白灰髪パッカラ




