VS ユアン
ユアンはその釣り上がった瞳を静かに細める。
「ほぉう、それは勇気か? それともただ単に後へ引けなくなったか? 」
「シグはいい奴なんだ。そんないい奴が困っている時に、何もせずに指を咥えているなんて、私が私を許さない! 」
馬鹿野郎!
お前はどれだけお人好しなんだ!
俺たちは昨日まで赤の他人だったろうが、程度を考えろ! こんな事でホイホイ命を投げ出してたら、それこそいくつ有っても足りやしない!
「そうか、決闘成立だな。キーグ、剣を貸せ」
言われた博士君はユアンの迫力に負け、はい! と返事と共に電撃の剣を手渡す。
その時、ユアンから掴まれていた手が自由になったため、一瞬でユアンから間合いを取りその勢いのまま建物の壁を蹴り二階建ての屋根へと登った。
「ユアン、この隙に逃げさせてもらうぞ! 」
しかし眼下の二人はこの言葉に耳を貸さない。意図を見透かされたようで、この行動では決闘を中断させる事が出来なかった。
ユアンはゆっくりと時間をかけ、電撃の剣を正面に構える。
「先に一太刀いれた方が勝ちだ。まぁこの剣なら死ぬことは無いだろう。それでお前は、この決闘に何をかける? 」
「シグの自由だ! 」
「そうか。私は、お前がこれ以上首を突っ込むな、だ」
ユアンはシャルルから一度視線を離すと、こちらを冷めた表情で睨みつける。
「それとシグナ、これは決闘だ。邪魔だてはするなよ」
視線をシャルルに戻したユアンからは、先程の薄ら寒い殺気は消えていた。が代わりに熱気というか、熱い気迫のようなものを全身に纏っているように感じる。
なんて、冷静に傍観している場合ではない。今やるべき事は、ただ傍観する事ではなく、シャルルを助けるための何かをする事。
そして今出来ることと言えばーー。
「シャルル、ユアンは魔法の類を一切使わない純粋な戦士だ。そして自身の剣技と体術に自信と誇りを持っている。とにかく油断するなよ! 」
シグナのために決闘をする羽目になった、シャルルへの助言。
そしてユアンの性格上ああ言っておけば、仮に隠し球として何かしらの魔法を覚えていたとしてもこの決闘では使わないはずだ。
「サンキューシグ」
いつもの調子で礼を述べるシャルルだが、視線はユアンから外していない。
そしてジリジリと、二人の距離が縮まっていく。
「こちらから行かせてもらうぞ! 」
ユアンが大きく踏み込む!
そして剣を振り下ろした!
その初撃をシャルルは構えた姿勢のままわずかに後退してなんとか躱す。
そこへ追い打ちとなる鋭い突きが迫った。
シャルルはヒャー、と情けない声を出し体勢を崩しながらも、左へ飛んで逃れると、素早く剣の切っ先を上に向け両手でしっかりと握り防御に適した体勢に戻る。
そこへ猛スピードでユアンが迫る!
思い切って体を飛び込ませたのだ!
と同時にシャルルの足元目がけて剣を振るう!
シャルルは迫る斬撃に対して、手首を返し切っ先を下に向けた剣でなんとか受け止めるが、間髪入れず繰り出された蹴りを胸に受けてしまう。
シャルルは後方に倒れそうになるのを素早く足を出す事により転倒を免れたが、代わりに後方の壁へと勢いよく背中からぶつかった。
しかし今のユアンの足を狙った斬撃、恐らくあれは囮のため力は殆ど入っていなかったはず。そうでないとあの間の短さで蹴りは出せない。
そしてここまであっという間の出来事であるが、シャルルは早くも壁際に追い詰められてしまい、これからの攻撃を後退で凌ぐ事は出来なくなっている。
しかしシャルルは笑っていた。
余裕がある、という訳ではないだろう。なので追い込まれてしまい、少し思考回路がおかしくなっているのかもしれない。




