オー、ニンジャマスター
ヌヌードラゴンの姿の描写が抜けていたため、前のお話に盛り込んでおります。
m(_ _)m
まるで待ち合わせていたかのように、空には淀んだ雲が広がっていき、それに伴い周りの景色も急速に変化していく。
土地は次第に荒れ果ていき、流れる景色の木々の枝には葉が一枚も残っておらず、それらは灰色の空と溶け込んでいた。
だいぶ足場も悪くなって来たな。
今まではこのハンヌマイール方面の大会が開かれる際、平原ルートを選び進んで来たため詳しくなかったのだが、情報収集と下調べをした結果底なし沼などが無い代わりに、体まで浸かる程の沼地がゴロゴロあることがわかった。
また一見遠回りに見えるかも知れないが、直前の入念な下調べで得た比較的走れる大地を選んで進んだ方が早いと言う、正に急がば回れな場所であることも。
空を見上げれば雨が今にも降り出しそうであるが、その心配はないだろう。
先程分岐点のところにワイバーンの奴等が飛来してくる事を知らせる黄色の旗が出ていた。と言う事は雨が降らない事を意味する。ワシも雲の流れなどで大体ならわかるが、奴等は空のプロである。奴等が飛行を開始したという事は、そういう事なのだ。
雨が降れば使える道が無くなってしまうからな。
ワシの泥跳ねが届かない後方に、サーベルユニコーンの奴が黙って付いて来ている。
奴はワシに賭けたようだ、いい判断だな。
遥か後方にはアーマーホースの姿も見える。沼地などを無視するかのようにただひたすら真っ直ぐ進み、泥にハマり体を大きく沈める度にその泥が舞い周囲に小雨となって降り注ぐ。
相変わらずパッカラとは思えない豪快な走りである。ーーあと、スライムの小僧もなんとか食らいついて来ているようだ。
それから意識を斜め前方で泥しぶきを上げながら駆けるドラゴン達へと向ける。
二匹のドラゴンが潰しあってくれれば良いのだが。ーーそんな事を考えていると、不意に異変に気付く。
ん? ヌヌーの奴の足が止まっている?
黒石竜に続き沼地を駆けていたはずのそいつは、前を向いたまま完全に足を止めていた。そして微動だにしない。
そして気味の悪い光景が、目の前で起こっていた。
沼の上を、ニンゲンがケツを下ろした状態で、滑りながら近付いてきているのだ。
あれはたしか、……ヌヌーに跨っていたニンゲン!
ヌヌーはその下か!
ニンゲンと一緒に、泥が波打つように目の前まで迫ってくる。
そして泥を巻き上げることなく、ぬるりと上半身を現したそいつは、流れ落ちる泥の中からツヤツヤと黒光りする体躯を見せた。
「悲悲井井井印!?」
その姿に思わず口から言葉が零れでる。
奴はドラゴンと言うより巨大なウナギに近く、それに対の翼と四本の脚を生やし、少し小さめな口に鋭く細い牙を所狭しと並べた醜い姿形をしていた。
ワシはギョッとしてしまいすぎて、前脚を高々と上げてしまっている。しかしその条件反射的に脚を上げたのが幸いした。
その何でも食いちぎりそうな小さく鋭い牙は、ワシの胸元辺りの虚空を噛み締めるだけに留まり、反撃である両前足の踏みつけを奴の頭部に食らわす事に成功したからだ。
苦しみの唸り声を撒き散らし、のたうち回る奴の頭頂部には、二つの蹄の跡が深々と刻まれた。
それよりこいつは、本当にヌヌードラゴンなのか?
まだ苦しみにのたうっている奴を尻目に、疑問が糸を引いたまま走り始めるワシとサーベルユニコーン。
そしてガトードラゴンの後方で静止しているヌヌードラゴンのほうを見やると、それは表皮だけしかない、まるで蛇が脱皮したかのような中身がもぬけの殻の状態がそこにあった。
その表皮は泥で固められた物のようで、パラパラと崩れて始めていた。
つまりあれが外行き用の皮膚だったわけか。
そしてーー。
「部吹吹付、部吹吹部吹吹吹《ヤツノ シンノ スガタカ》」
「不不普普普」
ワシの呟きに返事をするように、後方のサーベルユニコーンの声が聞こえた。




