決闘しちゃうの?
「遅くなったな、すまない」
胸まであるダークレッドの長髪に、意思の強そうなつり上がった眉毛と両の瞳を持つ彼女は、背筋をピンと張った状態で話を続ける。
「それで鑑識魔法の件なんだが、手配書が出ていないと動けないそうで、ん? …… 貴様は! 」
気がついたか。
はぁ~、ため息しか出ません。
この女性はユアン=アプリコット。
同時期に入隊した所謂同期と言う奴なのだが、シグナと違って出世街道驀進中の出来る奴である。
しかしなんでこいつが今ここに?
今にも噛みつきそうな形相で、ユアンが石畳を踏み鳴らしながらこちらに迫り来る。
「シグナ、聞いたぞ。昨晩開かれた会食の席で隊長達に無礼を働いただけでは収まらず、途中退席したらしいな! 貴様はどれだけカザン連隊長に迷惑をかければ良いのだ? しかも家にも戻って来ないし。とにかく私について来い! 」
もしかしてシグナを探して朝からこんな町外れまで来ていたのか? というか昨晩も探していたっぽいし。
しかしえーと、昨日はたしか、一等兵であるシグナがカザン連隊長に対して親しそうに呼び捨てにしていることに対して、その場にいた隊長職の一人が因縁をつけて来たんだったっけか?
納得いかなかったんだが、一応謝ったんだぞ。
なのにそいつは、その謝り方はなんだとかさらに詰め寄って来るし。
「貴様は入隊した時からそうだがーー」
あーあ、改めて思ったが組織に所属するのはやっぱり向かないのかもしれない。本気で転職考えようかな?
「シグナ、聞いているのか? 」
「面倒くさい」
「なっ、なんだと!」
なんてこったい、わざとじゃないんです。しかし漏れてしまった心の声に、ユアンが凄い剣幕でさらに詰め寄って来ます。
恐い。
「とにかく来い! 」
ユアンに腕を掴まれ、強引に引っ張られて行く。
「ちょっ、お前、待てって」
人を引きづりながらも進むスピードが落ちない。
力も勿論あるのだが、決めたら何がなんでも実行するという意思の強さが、彼女の力強さを後押ししているのだろう。
いやいや、冷静に状況分析している場合ではない。
でも強引に振りほどくと攻撃されそうだし、どうしたもんかな。
そんな暴走馬車のようなユアンの先に、一つの影が立ちはだかる。
シャルルであった。
シャルルはユアンをピッと指差すと、元気いっぱいに声を張り上げる。
「シグは今私のパートナーなんだ、勝手に連れていかないで貰えるかな」
「誰だお前は? 」
「シャルルゴールド、街の治安を守る者だ」
「警備兵か、…… 私の邪魔をするな」
ユアンから薄ら寒い殺気がシャルルに放たれる。
「と、とにかく喧嘩は良くないと思うよ」
ユアンを差したシャルルの指が震えている。完全に迫力負けしているようだ。
「喧嘩などではない、これは任務だ」
げっ、上からの指示で今連れて行かれようとしているのか。
「任務というなら、私の任務は街の人を助けるのがそうだ。やはり見逃せない」
それでも食い下がるシャルル。
「ではどうする? 抜くか? 」
低い声でユアンが問う。
これは完全に挑発だ。決闘をするのかと聞いているのだ。
決闘が成立すれば例え殺されても文句は言えない。それがこの国での決まりだ。
しかし、シャルルは剣を抜き、静かに構えてしまった。




