スライムって乗れるのかな?
「ちょっ、このドワ! スライムに乗るなんてどこのナイト様だよ!」
シャルルが唾を飛び散らせながらドコユキフに食ってかかる。
「仕方なかろう、レース用のパッカラは高いのだ」
「にしてもそれはないよ! スライムなんて色物中の色物だよ! しかもコロキノ型ってどんだけだよ!」
パッカラレース、その名の通り昔はパッカラのみを走らせるレースであった。しかし百年ほど前「人を乗せられるならば、どんな動物でも良いではないか」と当時の王様の一言でなんでもありの競技へと進化した。
最近では大きく成長しないタイプである小型ドラゴンに乗る者も見かけるようになってきたが、主力はやはりパッカラであり歴代覇者が乗っている動物は全てパッカラである。それほど競技用のパッカラは優秀なのだ。
しかしスライムか。
シグナは毎回噛り付くように大陸剣闘士大会の方を観戦していたためパッカラレースには詳しくないが、スライムに乗った人なんていままで聞いた事が無い。
もしかして今、20万Gを騙し取られようとしているのではないだろうか?
「サーニャルは大人しくていい子だぞ?」
「私はそのサーニャルにどんな顔して乗ればいいんだよ! と言うかどこに乗れるんだよ」
「それは問題ない、サーニャルでも溶かすのに時間がかかる特注の手綱と手袋、あと座席である背負い籠を用意してある」
「シグー、私が晒し者にされてしまうよー」
流石のシャルルさんも、待っている未来が残酷すぎてシグナに泣きついてくる。
たしかにこれはちょっと酷すぎると思う。ドコユキフが本気で言っているのなら、現実を教えてあげる必要がある。
「ドコさんよ、いくらお金がないとはいえ、スライムでパッカラさん達と張り合おうとか、少し背伸びしすぎているんじゃないのか?」
「それは、……俺のサーニャルを冒涜しているのか!」
「だってスライムだろ? それに俺達がお金を出すかどうかの瀬戸際でもあるわけだし」
すると机をダンっと叩くドコユキフ。
「そこまで言うなら走りを見せてやろうではないか」
ドコユキフがスライムの名を高らかに叫ぶと、水槽の中が蠢いたのち水面が上へと盛り上がり、水槽の外面を伝い大量のそれが流れ出てきた。そしてドコユキフの隣までくると、シグナと同じ背丈程もある特大のコロキノの姿を形成するのであった。もちろん手足が生えた、森を駆け抜けるバージョンである。
半透明で時折七色に輝くそれは、近くで見るとかなりの威圧感がある。
「ここでは狭すぎる、着いて来い! 」
言い放ったドコユキフは、スライムに向き直るとデレデレした表情へと変える。
「サーニャルはいつもの様においでね」
サーニャルは頷くように体をプルプルと揺らすと、足元の石畳に染み込むようにして消えていった。




