シャルルのパッカラ
そして水槽の中に何かを見つける。
「これは?」
親指程の大きさで六角形の透明な物を指差しながらドワーフに質問をしてみる。
「それは細胞核だ」
「細胞核?」
「スライムは知っているよな? 小さくて見えない事が多いが、どのスライムにも特別な細胞核が存在している。そしてこの水槽に入っているのは人工飼育によって大きく育った、特大のスライムちゃんだ。そしてその角ばったものはこのスライム、サーニャルの核である」
うげっ、スライムっていったら森や洞窟の中に潜む怪物で、獲物を取り込み溶かして食べるという奴。水槽の上が空いている事から、可能性として水槽の中の奴がその気なら襲われていた可能性がある。
少し距離を取りましょう。
腕を摩りながらドワーフが続ける。
「しかしどうしてくれるのだ、この腕ではレース前の検査で引っかかってしまうではないか」
「レースって……あんた、もしかしてパッカラレースに出場するのか?」
「そうだ」
ファッキュー、選手を傷つけてしまっただと! となると賠償金とか請求されるパターンでは? 因みにお金は安月給なためあんまり持ってないです。
「どうしてくれるんだ?」
「すまない事をした」
「謝るだけで済むならレギザ兵はいらないぞ!」
そうなりますよね。しかしそちらの言い分だけ聞くわけにはいかないのです。なんとかお互いの折り合いがつく所に持っていかないと本当にヤバスなんです。お金のため、……よし、反撃するぞ!
「しかしそちらにも幾分か責任はあると思うぞ」
「わかっている。まぁ損失金を支払えとまでは言わないが、せめて俺の代わりとなる選手を探してくれないか?」
やった、なんとかなりそうです!
「了解、できる限り協力しようと思う。してどんな人材を探せばいいんだ?」
「そりゃジョッキーと言えば、小柄であればあるほど良くて、センスがあれば文句なしだな。あと一番大切なのは、乗り物となる生物とどれだけ心を通わせる事が出来るかどうかだが。……レギザ兵の中に心当たりはないか?」
小柄でセンスがあるーー。
シャルルに目をやると見事に目があった。
「やれやれだぜ」
シャルルは大きなため息をつきキザな台詞を吐き捨てると、ドワーフに向き直る。
「おっちゃん、名前は?」
「ドコユキフだ」
「ドコ、あとはこの私に任せな!」
シャルルは腕を捲り首を左右に倒しボキボキとならす。彼女はやる気のようです。
しかしレースに出ると言っても、目標がどれくらいかが問題なんだが、優勝とか言わないですよね?
「ちなみにドコさんよ、あんたのパッカラは何位に食い込めそうなんだ?」
「入賞、と言いたいところだが、賞金圏内の5位までには入ってほしいかな」
「8頭中の5位か。厳しいレースとは言え、5位でたしか20万Gだよな? そんなもんでいいのか?」
「大丈夫だ。……隠しても意味がないから言うが、実は水晶の研究をしていてな。兄ちゃんは水晶を持っているか?」
「あぁ」
「金持ちなんだな」
「いや、正確には借り物なんだけど」
「そうか、やっぱり水晶は高価なため裕福な人間しか持てないよな」
そう言うと水晶の一つを手に取るドコユキフ。
「水晶をこの世界に、多くの人達の手元へ届ける事がワシの夢だ。ワシはこの水晶に、価格破壊をもたらそうとしているのだ。ちなみに研究は最終段階にまで来ており、そのための資金を手にしたら、どこか大手に売り込みにいく予定である」
なるほど、その水晶で一山当てようとしているのか。
「でも20万Gくらい知り合いに貸して貰えないのか?」
渇いた笑いを上げるドコユキフ。
「すでに借金まみれだ」
あー、すでに皆から借りて、誰も貸してくれない状態なんですね。
「他に聞いておきたい事はあるか?」
「えーと、そしたら仮に優勝とかしたらこちらにも分前はあるのか?」
「そうだな」
少し考える素振りを見せるドコユキフ。
「ーー何位であってもワシのほうに20万G、でどうだ?」
シャルルが頑張れば頑張るほどこちらが得をするのか。悪くない話である。
「わかった、そしたらパッカラを見せてくれ」
すると水槽を指差すドコユキフ。
「目の前にいるだろ?」
えっ? どゆこと?
「まあーー正確にはパッカラではなく、この水槽の中にいるワシのペット、コロキノ型スライムのサーニャルがパッカラレースに出場するのだ」




