ストームの仕業?
二人は旧教会方面に来ていた。
この城下町には三百年前に出来ている新教会もあるのだが、街の規模が大きいため古い旧教会も今なお健在である。
どちらも日曜の朝には賛美歌を歌ったり、創造主とされている女神レイ=アザディスにお祈りを捧げに多くの人々が集まる。
ただそこで働いている修道女と参拝者は二つの教会ではまったく異なっていた。
新教会の方では比較的家柄が良い者達が働いており、エリートが集まる魔法学院の学生がボランティアで参加する事もある。また国の公式な行事に使用されることもあり普段から貴族なども懺悔に訪れている。
代わって旧教会の方では、働いている修道女達のほとんどが身寄りのない貧しい者達で構成されており、孤児として街を彷徨っていた者も少なくない。
またこちらの給金はレギザイール王政から一切支払われておらず、現在少ない寄付のみで賄われている。
当然修道女達は贅沢など出来ず、日々を街の低所得者達と何とか食いつないでいる状態である。
そして路上にいる宿無しと呼ばれる浮浪者や浮浪児も、こちらの教会付近では普通に目に付き、治安はあまり宜しくない。
「シャルルさん、こっちこっち」
シャルルと同じく警備兵の階級章を胸に着けた、丸眼鏡に線が細い印象を与える大人しそうな青年が、こちらに手を振りながら声を上げている。
その青年警備兵に案内されてそこから路地裏に進むと、部外者が入らないように縄が張られており、そこを潜って進むと凄惨な現場が広がっていた。
「たしかにこれは異常だな」
被害者の体が壁にめり込んでいた。
そして壁の窪みと血痕からそこにあったのは間違いないだろうが、今時点では右腕と腹部がごっそりと無くなっていた。
遺体をめり込ませたのが魔法かどうかはまだ分からないが、野犬とかの仕業では無いことは確かなようだ。
「シャルルさん、ところでそちらの方は? 」
「あっまだ紹介してなかったね」
鼻を一度鳴らすと胸を張るシャルル。
「聞いて驚きなさい! なんとこのシグは、あの双頭の飛竜を倒したシグよ」
鼻息荒く、自分の事のように得意気に話すシャルル。
「シャルルさん、本当ですか! この人魔竜殺しなんですか? 」
「えぇ、あと今現在、私のパートナーにしてあげているのだ」
して貰っていたのか。
青年警備兵は驚きのあまり、ズレてしまっていた眼鏡を上へ押し上げながら目を輝かせると、突然説明を始める。
「人に害をもたらし規格外の強さを持つ竜を人は魔竜と呼ぶ。そしてその魔竜を倒した者に与えられし称号、ドラゴンバスター。そんな凄い人が目の前にいるんですね。あ、自分警備兵に配属されたばかりのキーグって言います」
目を輝かせながら両手を出してくるキーグ、ーーいやこれから博士君と呼ぼう。こちらもそれに応えるようにして右手を差し出し握手を行う。
あと謙遜をする事も忘れません。
「いやいや、俺なんてまだまだだよ」
まぁ〜実際カザンが居なければ、この世からおさらばしていたのは自分だったのかもしれない。とにかく際どい闘いになっていた事は間違いないだろう。
「そう言えばシャルルさん、鑑識魔法が使えるかもしれないですよ! 」
「どう言うこと? 詳しく話しなさい! 」
「はい、さっき軍の人が通りかかったんですけど、その方が話の分かる方で事情を話したら鑑識魔法を使える人を呼んで来てくれる事になって」
「おーでかしたキーグ君。そしたらもうしばらく現場はこのままにしておかないとね。人払いを続けるのだ! 」
「はい! 」
胡散臭い話である。
軍の人間が朝っぱらからこんな町外れをうろついているはずがない。
本来すでに訓練が始まっている時間帯のため、かなりの用事が無い限り抜け出すことは不可能である。
他に考えられるのは隊長クラス以上の上級職がここらにいたことになるのだが、それこそこんな町外れに来る理由がわからない。
ま、考えても仕方ないか。答えは待っていれば勝手に出るわけだしな、と考えていると、後方に向けて発せられた博士君の声が耳へと届く。
「ユアンさん、お待ちしていました! 」
そのユアンと言う名を聞き、顔が大いに引きつったのが自身でも分かった。




