魅惑のキノコ狩り
「シグー、こんなに取れたよ」
欝蒼とした森の中、毛先が跳ねた黄金色の髪を肩まで伸ばしている女の子が、両手で持つ籠に大量のキノコを乗せこちらへ無邪気に駆けて来る。
「今日の晩飯もキノコ尽くしだな」
「そうだねー」
シャルルはシグナの傍に置いてある背負い籠まで行くと、運んで来たキノコをドサドサドサと移していく。
「あっ、まだあそこに沢山ある」
「そこが終わったら昼休憩にするか」
紐に腕を通し背負い籠を持ちあげると、駆けていくシャルルの後をゆっくりと歩いて続く。
晴れ渡る空のため、木々の間から眩い陽の光があちらこちらに差している。今日は絶好のキノコ狩り日和である。
あぁ、しかし今日でついに一週間、ずっとキノコ狩りに勤しんだ事になるな。
シグナ達が狩り取っているキノコは別名コロキノ。味や用途がある時期を境にころっと変わることから、その名を付けられたキノコである。またこのキノコは繁殖をこの時期にだけ行う特殊なキノコであり、煮てよし焼いて良しと口に入れればあの松茸キングと同等の評価を持つ高級キノコにも分類されている。
二つを比べた時、松茸キングは噛むたびに変化させる七つの淡い香りが嗅覚を虜にしてしまう程の香りを持つのに対して、コロキノは香りでは負けるが咀嚼したさいに染み出る旨味成分に独特の肉の脂のような食欲をそそるものがあり、白い飯をガッツリ食べたい派のシグナはこちらが好みであったりする。
ただこのコロキノ、時期が過ぎると猛毒を辺りに撒き散らす毒キノコに変化してしまい、さらに月日が流れると胞子を撒き散らすために足を生やし森の中を走り回る怪物に成長してしまう。そのため繁殖時期にこの手付かずの森に迷い込もうものなら、このコロキノの大群に体当たりを受けて全身毒だらけになってしまうおそれがある。それを回避するために毎年この時期になると近隣の町の人達が総出でキノコ狩りを行い、そしてこの時期で食べきれない分を焼却していた。
しかし今年は当たり年のため例年の十倍のペースでキノコが発生しているそうで、町の警護を担当する第二師団に混じり、任務として二人も広い森の中で延々と続くキノコ狩りを行っているのであった。
因みに今日頑張れば、コロキノの大発生を防げる目処が付くらしく、ラストスパートで辺りのコロキノを片っ端から取っていっている。
そうそう、以前愛の告白(仮)をしたシャルルとの仲は、あれから何も進展がなく以前と変わらない毎日を送っていた。
なんだか、あの日の事が幻だったのではと疑ってしまいそうになるが、それをシャルル本人に確かめるなんて恥ずかしい真似は絶対に出来ない。
「よし、ここらも片付いたかな?」
「うん、それじゃ昼にしよー」
木の幹に腰を下ろし、シャルルが作ってきてくれた弁当を広げる。
やっぱ、コロキノ弁当は旨々である。
するとシグナのバックが微かに光出す。
カザンが自腹で購入して持たせてくれている水晶が、ほんのりと光を放ち出していた。




