【エピローグ】 ローザさん、そう仕向けるために奮励努力します!
朝日の中キタカレの町に戻ったシグナ達は、一人町を守っていた兵士と町の人達に今回の報告を行う。そして町外れの開けた土地で、ガレリンを含む亡くなった人達の弔いをその日の内に済ませた。
その日の晩ーー。
シグナ達はキタカレの酒場で丸テーブルを囲んでいた。カザンは1人、店の外で夜風に当たりながら一杯やっている。
今思えばこの時、魔力が満ちていたとはいえ一昨日の寝不足と昨日の徹夜がたたり冷静な判断が出来ない状態であったと思う。何時ものように先が読める状態ではなかったのだ。
「それではシャルル嬢、これをお願いしてもいいですか?」
「いいよー」
追加で来た酒と食べ物が乗った皿をお盆ごとシャルルに渡すローザさん。シャルルはそれを外にいるカザンの元へ運ぶべく席を立った。
シャルルの後ろ姿が見えなくなると、おもむろにローザさんが眼鏡をクイッと上げる。
「シグナさん、いい事教えてあげましょうか?」
人が死ぬと、それが大切な人であったりすると、人はその悲しさを埋めるように明るく振る舞おうとする事がある。そして何かに没頭しようとして忘れようとも。おそらくそんなノリでこの話は始まったのだと思う。
「ローザさん、唐突に何ですか?」
「薄々感ずかれていると思うのですが、シャルル嬢はシグナさんの事を気にしていますよ」
「ん? 俺の何を気にしているんですか?」
「えっ、本当にそんな事言ってるんですか?」
「だから何なんですか?」
頭を抱えるローザさん。
「今の話はちょっと置いておいて質問しますよ? いいですか?」
「はぁ」
「ずばり、シグナさんはシャルル嬢の事をどう思っているのですか!?」
「なっ、何なんですか?」
「なんなんもクソもありません、答えてください」
「……一緒にいて楽しい、ですよ」
「それから?」
「気が効く、かな?」
「焦れったい、さっさと吐け」
「しっ!」
クロムが割って入ってきた。それをローザさんが制する。
「 女性としての魅力はどうですか? 可愛いですか? 不細工ですか?」
「そりゃ……可愛いとは思うけど……」
「けど?」
「とにかく、あいつの求めるものを俺は持ち合わせていないですよ」
「どういう事ですか?」
「シャルルは大成する事を第一に考えているんだ。そして、結婚とかはその手段の一つとして捉えているんだ」
「へぇー、でも特務部隊にいても昇格とかないんでしょ?」
「それはそうなんだけど、きっと肩書き作りみたいな風に捉えているんですよ」
「可笑しいなー、私の勘はビビッときているんですけどね」
「気のせいですよ」
腕を組んで考えるローザさん。
はぁー、面倒臭いけど、もう少ししたらシャルルが帰って来る。それまでの辛抱だ。
ふと視線を戻すとローザさんが笑みを漏らす。
「カザンさんに頼んで、時間稼ぎしてもらっています」
「なっ!」
「そうだシグナさん、もう一つ質問いいです?」
「……」
「シャルル嬢はシグナさんに涙を見せたことありますか?」
「涙? ありますけど」
「ほぉー、それはどんな時に泣いていたのかを具体的に教えて下さい」
「えーと、俺が行方不明になってて、その後再開した時だったかな」
「ふむふむ、その時肌と肌は触れ合いましたか?」
「……えぇ」
「ほぉー、ちなみにどんな風に?」
「軽くなんですけど、その……抱き締める感じで」
「いやーーーー、……失敬。あっ、それってシグナさんが抱き締めた感じですか?」
「……えぇ」
「なぬ! それでは……そうだ、その、シャルル嬢はただ抱き締められるだけでしたか? 何かこう、頭を預けたり抱き締め返したりとか、なかったですか!?」
「まぁ、……あったと思います」
そこでニヤリと笑みを浮かべるローザさん。
「やはり、私の勘は当たっていたようです。とその前に、にぶにぶであるシグナさんのために事細かに説明しましょう。いやほんとにぶにぶですよ、そこは反省して下さい」
「はぁ」
「それでは本題です。普通の人は大まかではありますが嬉しい時と悲しい時のどちらかの状態で、感情が爆発した時に涙を流します。そしてシグナさんが行方不明になった時、シャルル嬢は悲しい状態になりました。そして再開した時、嬉しくなりました。ここまではいいですか?」
「……はい」
「次に普通の人はこのような再会の際、その再会する相手が赤の他人だったとすると泣く事がなくよかったねで終わり、今までお世話になった人や縁が深い人だと泣いたり泣かなかったりと半分半分くらいになり、最後に肉親や恋人だと殆どの人が感情を爆発させます。オッケーかな、シグナさん」
「オッケーです」
「……そうそうちょっと脱線しますけど、シャルル嬢と接していて感じたのですが彼女は仮面を被っているというか、無理に明るく振舞おうとしているところがありますよね?」
あいつはいつも明るく頑張っている、……けど本当は皆と一緒で弱い。
「そうだと思います」
「演じているのが泣きやすいキャラとかにしている人は別になりますが、これは今回当てはまらないので除外です。シャルル嬢のような人は、心に殻を一枚作っていると言うか元の自分に戻るためにはどうしてもワンクッション入ってしまいます。そのため感情を爆発させるためには普通の人より時間がかかったりするのですが、ここは大目に見て親しい仲の人でも涙を流すかどうかは半分半分にしておきましょう。ただし泣くことと思わず接触をしてしまう事を同時に行ってしまうのは、肉親や恋人ぐらいまでの存在でないと無理です。それ以外では自らアクションを起こすか泣くことのどちらかが欠けてしまった状態になってしまうと私は断言します」
なんか言われている意味がわからなくなってきました。
「ではシグナさん、長くなりましたが、この考えが正しければシャルル嬢にとってシグナさんはどんな存在になりますか?」
「……肉親か恋人と、同レベルですか?」
「そうです、良く出来ました」
でも肉親なら、兄のように考えているかも知れない可能性がまだ残っている、よな。
「なにグダグダ考えているんだ? 貴様は俺様を倒した男だろうが」
「それがなんだよ?」
「あの時のお前は迷うことなく、瞬時に物事を判断して行動に移していたんだろう? それがなんだ、今は考えこんで全然前に進もうとしていないじゃないか? さっさと告白でもなんでもしてみろ。 あの女の事だ、断わったとしても次の日にはそんな事ありましたか? くらいの事をさらっと言える玉だぞ」
確かにそうだが……。
「シグナさんシグナさん。レギザイールでは4年に一度開かれる大建国記念祭がありますよね? そしてたしか最終日にのみ打ち上げられる花火へ一緒に見に行く事を、異性に誘うと言う事が愛の告白と同じくらいの意味であったりしますよね?」
「……はい」
「そして花火の最中に、本当の愛の告白をする。キャー素敵!」
キャーキャー騒いだ後、ごほんっと咳払いをするローザさん。
「これは誘いやすい上に断られてもそんな意味は知らなかったよ、と白を切ることが出来る、色々と計算された素晴らしい愛のイベントです」
眼鏡をクイクイ上げ下げしながら興奮気味に話すローザさん。
いや、でも簡単に言いますけど生まれてからずっと城下町で過ごして来たため、白を切れといわれてもその花火に誘うイコール告白は、そう簡単に頭の隅に追いやる事が出来ない、恥ずかしすぎるセリフなんですけど。
「戻ってきたぞ」
小声で話すクロム。
「うおっミンミンの丸焼きだね、誰が頼んだの?」
席に座ると同時に、追加された四本翼の鶏科の姿焼きを見て、喜びの声をあげるシャルル。
不味い、心臓の鼓動が早くなってきた。なんでこんなに緊張しているのだ? どんな返事が返ってくるのかを気にしているのか?
いや、誘わないと言う選択肢がーー。
「いてっ」
そうこうしていると、テーブルの下でクロムに足を蹴られた。
「シグ? 大丈夫?」
「なっなあ、シャルル」
「なにー?」
「今度の大建国記念祭なんだけどさ、よかったらでいいんだがその、一緒に花火、見に行かないか?」
「え?」
シャルルがきょとんとした。そしてシグナから視線を逸らし、ここにいるクロム達を見ている。
困っている! いきなり愛の告白(仮)をされたもんだから困っている!
なんか色々言われて頭を使いすぎて、テンションがおかしな事になってたものだから、つい言ってしまったが、シャルルにとんでもない事を今言ってしまった。
そして何故か、……シャルルから目を離せない自分がいる。
シャルルはこちらに向き直ると、一呼吸おいたのちその唇を動かし始める。
「花火? そうだなー、あんま興味ないかなー」
その言葉で血の気が一瞬で引いていくのを感じた、ははっ何を期待していたのだ。なんか思った以上に、凹んでいる。そしてもう、シャルルの顔が見れない。
「でもー、シグが折角誘ってくれたんだし、行ってみようかなー」
えっ?
今、オッケー貰えた、のか?
顔を上げシャルルを見ると、視線をプイッと外されてしまった。どこか照れているようにも見えるが、目の錯覚とかじゃないよな?
そして心臓が、またバクバクと凄い音を立て始める。
そしてクロム達の視線が気になったのか、シャルルが話を振る。
「なにさっきから、人様をジロジロと見てるんですかな? 」
「ふん、嬉しい癖に強がりやがって」
「クロム様!」
急に話を振られたクロムが悪態をつき、ローザさんが小声でそれを注意する。
そんな2人のやりとりを目の当たりにしたシャルルは、一瞬動きを止めると顔を真っ赤に染め上げていく。そして席を立つと酒場を後にした。
「馬鹿馬鹿しい」
「クロム様! シャルル嬢が可哀想です!」
いかん、頭がクラクラして足が宙に浮いている感じが止まらない。
「すまない……ちょっと外で風にあたってから、帰るよ」
シャルルの分の代金もテーブルに置いたところまでは覚えている。気が付くと夜風で髪がそよぐ中、ボーと景色を眺めていた。そして先ほどのシャルルの反応を思い出す。あの真っ赤にした顔、シャルルも花火に誘われた意味を知っているってことだよな。その上でオッケーをくれた。
不味い、なんか今もの凄く幸せである。心臓の音がバクバクと凄い勢いで跳ねて顔がにやけているのが自身でもわかる。
あれ、そう言えば当日に仕事が入っていたら、花火を見れないじゃないか! ……そうなったらその時考えるか。それより行くと過程して心の準備をしておかないと、な。
……。
…………。
見るならあそこしか無いよな。シグナの原点であるレギザイール王都が一望出来る、あの丘しか。
花火を下に夜のレギザイールが見れるとっておきの場所を。
あの場所、シャルルも気に入ってくれるといいな。
そして本当の愛の告白か。
不味い、また顔がにやけてしまっている。
その日は、幼い頃に家族で横に並んで寝ていた時のように、久々に心が満たされている夜となった。
明日は晴れるかな、そんな事を考えているといつの間にか疲れから眠りについていた。
しかし運命とは残酷である。
この約束が果たされる事が無いことを、シグナ達はまだ知らないのだから。
いやー、おかげ様で節目というか折り返し地点となる第4章まで目の前まで来ました。皆様には感謝MAXハートです。
そうそう、筆者は所謂ブルーな職業のため、この物語は時間が出来る遥か先である定年後に書くものであろうと思っておりましたので、ここまで書けた事に正直ビックリしております。
さて4章になりますが、こちらも充電後すぐに再開いたしますので、皆様良ければこれからもごひいきにお願いいたしやす。
因みに第4章は「レギザの暗部とパッカラレース(仮)」となっており、何時ものようにプロローグで再開日時などを報告させて頂きますです。




