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オーディエンス

 奏でられる歌と音楽がはっきりとこの身を震わせる中、開かれた世界は異様であった。ある程度想像していたとはいえそれを目の当たりにすると、やはりここが異常な世界である事を再認識される。


 その場所は白と黒のツートンカラーで構成されており、入り口からなだらかな下り坂が続いている。遥か下方の正面の壁には巨大なパイプオルガンが設置されており、その前の平らになっているステージにはオーケストラ風の楽器を手にした蒼いトランプ達が椅子に腰掛け楽器を演奏し、中央部のせり上がった床の上には、時折くるりと舞いながら歌う者がいる。

 その歌い手の顔には長いまつ毛に埋れたギョロリとした瞳と口しかなく、真っ赤なドレスにお揃いの手袋とハイヒールに身を包んだ漆黒の肌に真っ赤な髪留めで後ろ髪をまとめた(注)銀髪の女がいた。

 恐らくこいつが、このひときわ目立つ場所にいる歌い手こそがこの世界の主であろう。

 そしてローザさんが思わず問いかけるようにクロムの名前を口にする。


「クロム様」

「あぁ……あれはメアリー叔母さんだ」


 そして……。


『ザスッ』


 視界の上、丸みを帯びた天井のどこかからか降ってきた赤騎士が、その赤ドレスの女の前に降り立った。

 やはりいたか、赤騎士ガーディ。ここからだと胸や腹部に傷は見えず、また兜に血を流す瞳も浮かんでいないようだ。全て元通りに戻っていると考えたほうが良さそうだ。

 赤騎士はすぐさま闘争本能のまま襲いかかってくるかと思ったが、その場で唸り声を上げるのみ。ただ手綱を握られ無理矢理その場に静止を命じられているような、今にも飛びかかってきそうな感じではある。


 これから奴等を倒さないといけない。

 しかしここは敵の本丸、この坂を一度下れば五体満足で戻って来れるのであろうか? いや、場に飲まれるな! 目の前の赤ドレスの魔物を倒さない限りここからは出られない。それに犠牲になった人達を弔う意味でも奴を倒さねば。それにこちらにはカザンと牛歩のガレリンもいる。これで負けるはずがない。

 皆気持ちを奮い立たせ一歩一歩下り始める。

 とその時、左右の高所に設置された通路からドラムを叩き、又トランペットを高らかに吹く蒼いトランプ達が一斉に顔を覗かせた。その脇を先の赤騎士戦時に顔を見せた顔に口しかない子供達が走り回っている。

 そしてラッパの音がけたたましく鳴り響く。これは軍などで突撃の際に吹かれる音に似ている。するとそれを合図に紅いトランプ達が、左右の二階通路から大量に降って来た。着地を失敗して動かなくなるものもいるが、その多くのトランプ達が握る鋭い針のような剣を突き上げたため、それが剣山のようにズラリと並んだ。

 そしてドラムが一定リズムで叩かれ始めると、ステージの裾から現れた剣と盾を手にした蒼いトランプ達がステージ前へ一列に整列し、その後ろに槍を持った蒼いトランプ達が駆け足で同じく整列していく。そしてドラムの音に合わせてゆっくりと前進を開始する中、両サイドの紅いトランプ達がドッと押し寄せてきた。


神聖衣中等魔法ホーリークフイプロテクション


 各人武器を構え迎撃態勢に入っていたところに、ローザさんが唱えた防御魔法が全員の体を暖かく包み込む。

 その時、キラキラ光る何かが部屋の上部に舞い上がった。


「上だ、来るぞ!」


 カザンの注意が飛ぶ中、上空へ放たれた物が何かを悟った。小さな紅トランプが握るのと同じくらい小さな針のような矢が、左右上部の通路より一斉に放たれたのだ。

 こちらに向かい下降を始める小さき矢の群れ。

 シャルルを腕の中に引き寄せドラゴンソードに身を隠すように体に立て掛けた上でマントを広げる。

 カザンが力を込めた一振りでそれらを薙ぎ払い、ガレリンがローザさんの前に陣取り盾を掲げる。そこにクロムも飛び込んだ。

 紅いトランプを串刺しにしながらトストスと地面に刺さっていく矢の雨。その矢が降る中、運良く攻撃を受けなかった紅いトランプ達が足元に忍び寄って来る。

(注)大きめのフレンチコームで夜会巻きをしているイメージです。シグナはそういった知識がないため補足。

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