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移動部屋

 現在石はクロムが握る手の中にある。

 この魔法、手の内にある石が移動した先に目的の人が存在し、近づけば近づくほど石の押す力が強くなる物らしい。

 正規の鑑識魔法と比べて板やら何やらを出さなくて良く、片手で出来るためクロム曰く使い勝手が良いそうだ。

 また死者には使えないそうで、クロムが旦那さんは生きている可能性が極めて高い事を伝えると、エリーさんは泣いて喜んだ。


 反対に悲しい事実もわかった。

 第二師団の者達と思われる死体を途中で確認したのだ。彼等の帰りを待っている人達のためにも、生き証人として生還しなくてはならない。


 一行は更に進み、十数枚目の扉を開くと今までとは明らかに違う、異質な小部屋へと辿り着く。

 その部屋は歌声と楽器の音が今までで一番大きく響き鮮明に聞こえる。また正面の壁には模様が入れられており、左右に一つずつある小窓から見える景色は漆黒の闇だけを映し出している。

 しかしこの部屋、入室した時に通ったもの以外の扉が存在しない、行き止まりの部屋であった。

 何かありそうな気がして、叩いたりして皆で調べてみたが何も出てこない。思いきって扉の開け閉めしてみたが、何故かここだけ部屋のシャッフルも行われない。

 あとする事が思いつかない。


「引き返すか」


 もしかしたら次は旦那さんのところに行けるかもしれないから。しかしそこでクロムから待ったが掛かる。


「待ってくれ、……やっぱり間違いない。この上に今までにない、強い反応を感じるんだ」

「上?」


 見上げてみるが、扉もなければ他の部屋の天井となんら変わりがない真っ白な物が広がっているだけである。

 ぶち破れば良いのか?

 そしてふと外に目をやれば、鎖が上から下へと何本か垂れている事に気づく。

 なんだろう、あの鎖。


『ドドドドッ』


 突然部屋が揺れた。

 体が地面に引き寄せられる感覚に陥り、そこで外の鎖が激しく上へ下へと動いているのが見えた。また時間の経過と共に、歌声と楽器の音がより一層大きくなって行く。

 そしてもう一度部屋が揺れるのを最後に部屋が止まり、外の鎖も左右に少し揺れているだけとなった。


『ゴガガガガガ』


 正面の模様がある壁一面から地響きのような物音が鳴り響き、壁に隙間が出来たかと思うとゆっくりと左右に引かれ次第に正面が開かれていく。


「私達の仇を……」


 エリーさんの言葉が聞こえた気がした。振り返り今の今までエリーさんが立っていた場所に目を向けるが、そこにはもうエリーさんの姿はなかった。


「シグ!?」

「あぁーー消えた」

「皆、気を引き締めるんだ!」


 カザンの言葉で正面に向き直ったシグナ達はその光景に身震いを起こし、自ずと剣を自身の目の前へと持って行っていた。

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