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双頭の飛竜、上

 冷たい風が少し強めの音と共に通り抜ける。

 肌寒い。

 だが陽が出れば日向は暖かいが日影は涼しい、今日はそんな日である。

 先ほどから大きな街道を歩いているのだが、すれ違う人の姿は殆どない。

 これは完全に奴の影響である。


 シグナはとある特務任務を帯びていた。それは街に巣食う一匹の飛竜ワイバーンを討伐することである。言葉にすれば簡単であるのだが、どうもこの任務、一筋縄ではいかないようなのだ。

 何故かと言うと、ただ単にこの飛竜が強いからである。


 飛竜は群れでの移動を好み、少なくてもつがいで行動をするものなんだが、目的の街に現れた飛竜は一匹しかいなかった。

 にも関わらず街を守護するため派遣されていた兵士達は、この飛竜の討伐に当たるも、その飛竜らしからぬ強さの前に敗北を許してしまった。その後増援の部隊や賞金稼ぎ達も挑戦したようなのだが、結果は散々なものに終わったらしい。


 聞いた情報では今から四日前に街へ現れたその飛竜は、なんと二つの首を有しさらに猛毒液を撒き散らすと言う。またその姿から双頭の飛竜(そうとうのドラゴン)と呼ばれるようになったそいつは、あまりの強さに自国であるレギザイール王国が正式に魔竜・・と認定したほどだ。

 因みに魔竜・・とは、人に害をもたらす規格外の強さを持つ竜の総称である。


 そして現在、シグナはレギザイール王国に属する街、ミシリイールへと奴を討伐するために向かっているのだが。

 ……はっきり言ってチャンスである!


「なんだシグナ、にやけてどうしたのだ? 」

「え? むっ、武者震いみたいなもんだよ! 」


 隣を歩くカザンに指摘され気付く。知らず知らずの内に笑みが零れてしまっていた事に。

 いかんいかん、流行る気持ちを抑えるのだ!

 しかし魔竜である!

 倒したら魔竜殺し(ドラゴンバスター)の肩書きが貰える魔竜なのだ!

 もし仮に名誉あるこの称号を獲得すれば、軍でも一目置かれるようになる、かも知れない。

 それにもしかしたら、今からの闘いを知った誰かが、書物に残して後世に語り継いでくれる、かもしれない。


 いや〜しかし、本当にそうなると英雄達の仲間入りみたいで格好良いな!


 前回魔竜が出現したのが15年前で、その時は深手を負わせて退けるだけで手一杯だったらしい。そして遡って調べた結果、魔竜殺し(ドラゴンバスター)と呼ばれる現役の人は現在1人もいない。

 そのため今回もし魔竜を倒せれば、シグナ=魔竜殺し、魔竜殺し=シグナ、と言う図式が出来上がるのだ。


 しかも今回、共に任務にあたる相方がとてつもなく心強い。

 そう相方として隣を歩くおじさんは、長身であるシグナをも軽く超える二メートルオーバーでガチマッチョ。大剣を片手剣のように自在に操り、国中の人々から勇者様と親しみを持って呼ばれる、すんごーい御方であるのだ。

 軽い天パーである地毛を胸の辺りまで伸ばしているこの人の説明は、至極簡単。

 最強! 以上!

 ……いや不死身、のほうがいいかな?

 それとも超人?

 とにかくこの人がいて、負けるわけがないのだ。

 最悪シグナが下手打ったとしても、カザンがいれば何とかなってしまう、そんな頼もしさ。

 あぁ、この人の部下で本当に良かった。


「シグナ、着くぞ」

「うっす!」


 レギザイール王国領内ではどこの街でもそうなのだが、このミシリイールも外部からの敵を寄せ付けないための強固な外壁で守られている。

 この街には南北に出入り口となる大きな扉が設けられているのだが、その一つである南の外門に近付いて行くと、門兵をしている第二師団の連中が街道にいるのが目に入った。

 そしてこちらに気付いたその内の一人が、その顔に疲労の色を見せながらも、こちらへと駆け寄って来る。


「カザン連隊長、お待ちしておりました! 」


 門兵が呼吸を整える時間も惜しんで一気に話すのを待つと、カザンが問いかける。


「中の様子は?」

「奴は街の商店などの食べ物を漁っているようで、まだこの街に留まったままであります! 」

「わかった、後は我々に任せてくれ」


 少し離れた所で聞き耳を立てていた第二師団の連中が、カザンの言葉を聞き険しかった表情を緩めたり安堵のため息を吐いたりしている。


 そしてーー。

 重い扉が門兵達により開かれ、シグナとカザンは街の中へと足を踏み入れるのであった。


 日の光が強くなる中、出迎えてくれたのは大きく右にカーブをしている石畳の道と、圧迫感を感じずにはいられない見上げる程の高さの左右の建物達。

 廃墟と化した街、人がいるべきところに人がいないというのはやはり違和感を覚える異様な光景である。街の至る所には物が散乱しており、魔竜襲来時に人々が逃げ惑った光景が目に浮かぶ。


 足を進めて行くと、壁や石畳にべったりと血のりが付いた跡が目に付きだした。中にはその乾いた血の傍に、剣や盾、そして弓などの武器が落ちていたりもする。人の死体が転がっていないことから、第二師団の連中が遺体だけでも回収したのか。


 日射しで明と暗がはっきりとする中、一軒の果物屋の前で目が止まった。店内はまるで暴風でも吹き荒れたかのように荒らされており、当然食べれる物は何も残っていなさそうだ。外の連中が言っていたように、双頭の飛竜が食い散らかした後のようだ。


 そして更に道を進んでいくと、少し前を先行していたカザンが脚を止め振り返る。そして手の平を開いて見せ静止の合図を送ってきたのち、続けて人差し指を口元で立てて見せると手招きをした。

 シグナは足音を立てないようにそろりそろりと進むと、カザンと同じように壁際からその先にある広場を覗き見た。


 広場を見渡してみるとここが、道が十字に交差する場所でもありちょうど反対付近の壁に巨大なものが微かにだが動いているのがすぐ目についた。

 それはターゲットである双頭の飛竜。

 奴はこちらに背を向けたまま、地べたにその長く細い首を下ろして食事中のようだ。


 しかし本当に首が二本もある。

 今まで結構な数の冒険物の本を読んで来たが、二つ首の竜なんてどの本にも描かれていなかった。突然変異って奴なんだろうけど、二本首の竜を拝める日が来るとは。

 ……世界は広いぞ!

 これなら妹のセレナに自慢出来るかも知れない!


 長剣を握る力を強めながら、カザンと共にゆっくりと気付かれないよう、広場の物陰から物陰へと進んで行く。

 しかしさっきから、奴は何をガツガツと食べているのだ? あと少しで見えそうなんだがーー。

 現在物陰として利用している荷馬車から少し乗り出し気味で見ていると、ふとした拍子に双頭の飛竜の隙間からその食べているものが見えた。


 あれは、……人だ。

 逃げ遅れた街の人か、闘いを挑んで敗れた者なのかは分からないが、そこにはゴミのように一箇所に集められた人達で、小さな山が出来上がっていた。

 その光景に思わず唾を飲んでしまう! そして喉を鳴らすゴクリと言う音が、静かな広場で微かに鳴った。

 しまった!

 そう心の声が叫ぶ中、人の腕を咥えている奴の首の一本と目が合ってしまう。と同時に風切り音が鳴った。


「シグナ! 」


 カザンが叫ぶ声が聞こえる中、細長い何かが黒い影として視界に入ってきた。

 目の前に盾として荷馬車があるが、カザンの声に驚き咄嗟に身体の前に長剣を動かしそれを防ぐための体勢になる。


 そして、それが幸いした。


 それはバパカンッと乾いた破壊音を立て、馬車を大きく破壊しながらもさらに迫ってきたのだ。

 なんとか剣で防ぐ事が出来た!

 がその影の威力で二、三歩後ろへよろめいてしまった。

 そこへ立て続けに、遮蔽物が無くなったシグナを狙い、砂埃を上げながらまるで鞭のように影が再度迫る。

 ヒュンヒュンと風を切る音。

 連続で飛んでくる攻撃。

 そしてそれを何度も受けていく内に、その正体が判明した。

 それは他の飛竜よりも明らかに長すぎる、双頭の飛竜の尻尾。


 これは洒落にならない!

 道中、風の魔法を少しでも使っていなくて良かった。仮に体に魔力が満ちていない状態であったならば、握る長剣は初撃ですっ飛ばされていたかも知れない。

 なおも間髪入れず連続で迫り来る攻撃を、後退しながらなんとか防いでいくがこれは正直やばい。


『キーーン! 』


 金属同士が衝突するような音が広場に鳴り響いた。


「硬いな」


 カザンが振り下ろした大剣が、飛竜の高速で動き回る尻尾を捉えたのだ。しかしその一撃は尻尾を弾き飛ばすのみで、斬り落とすことは出来なかった。

 そこで双頭の飛竜がドシドシと足踏みをしながらこちらへ体を完全に向けると、口を縦に開き二つの頭で同時にシャーと威嚇の音を発した。

 そして奴は前傾姿勢になると、後脚で大地を踏みしめた!

 その二本の脚が大地を捉える度に地面を揺らしながら、その巨体が前方、シグナ達の方へ突進を開始した。


 狙いはカザンか!

 前進する飛竜が翼と一体化している長細い前脚を地面に擦り付けるようにして着くと同時に、カザンを噛み殺そうとその長い二本の首を伸ばしてきた。

 対するカザンは冷静であった。

 既に腰を落とし大剣を後方まで振りかぶり力を溜めている。そして双頭の飛竜の両の頭が他方から迫る中、カザンは身を屈めて奴の懐に飛び込む!

 鋭い牙がガツンガツンッとカザンの皮の鎧と服を切り裂く中、二本の首の下に潜り込む事に成功したカザンは、力のこもった横薙ぎを右から左へと斜め上方へ向かい振った!


 煌めく剣筋!

 そして渦巻き状に舞う、飛竜の首から先!


 カザンの一撃が奴の首を一本、斬り落としたのだ!そしてカザンの大剣は勢いそのまま、二本目にも迫っていた!

 しかし飛竜の鱗が予想以上に硬かったようで、カザンの力を持ってしても二本まとめて斬ることは出来なかった。

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