ある現代吸血鬼の希望
徘徊と言われると、強く否定できないのが悲しいところだ。
吸血鬼の辛さは日中出歩けないことにある。
仲間のうちでは、昔のように人を襲わなくてもよくなったから幸せだという奴もいるし、コンビニも24時間営業だから便利だという奴もいる。
長生きするもんだ、と20代かそこらの顔で、友人は言う。
たしかに、数百年前にもっと西洋人らしい面立ちでこの国に来た時は、刀を振りまわしていた人々が個人の電話を持って歩くなんて思いもしなかった。
テレパシーを遣わなくていいのは、確かに便利だけれど。
俺には夢があるのだ。そのためにはどうしても、日光の下を歩く必要があった。平然と。
一度でいいから、食パンをくわえた登校中のセーラー服少女と、曲がり角のところで運命的な出会いをしたいのだ。
今、もし無理をして朝日の下に出たところで、黒い長そで長ズボンに、サングラスとマスクと帽子をかぶっていなければならないし、それを取ったら灰になってしまう。
ぶつかった人間が黒ずくめだったら、「どこ見てんのよ!」の間もなく通報されてしまうし、職質されてマスクを取ったら、警官の前に灰の山が出来てしまう。
夢がかなうどころか、命の危機だ。
でも、俺はどうしてもその夢をかなえたいのだ。
だから、これを見ている誰か、できれば10代の見た目と心に自信のある少女の君。
22時台あたりに、食パンをくわえて近くの十字路で待機していて貰えないだろうか。
絶対にぶつかるから。
一応言っておくが、見た目は悪くないし、長生きしたぶん金もある。
それに恋人になってくれれば、その若さと美貌を保てるようになる。
悪い話じゃないと思う。