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少年・男 ~あの時の謎~

~少女の話の後~


それから、また少女は喋りだし全て話し終えたころには涙はもう乾いていた。

少年はただ聞いていた。自分に好意を寄せてくれている。だけど、それにはこたえられない。僕には”生きる”ということ自体が意味があるのかもわからない。そのなかの恋など僕には到底理解できないものだったから。


少女は帰った。帰る前に、自分の気持ちは本当だと言ってくれたが、僕は断った。少女は断られるのをわかっていたようだ。何もなかったように、また来るね。とだけ言って帰って行った。






少女”ミーシャ”とはそれからしばらくは会えなかった。

僕も外に出ようとしなかったし、少女も訪ねてこなくなった。

それだけのことだった。







~訪ねてきた男~

話は少しさかのぼる。


少女がよく訪ねてくるようになる少し前、木の上に連れて行かれた少し後、少年の下に一人の男性が現れた。

その男性を、少年は知っていた。


コンコン


少年「ミーシャが来たのか…?」


と思いドアを開けると、そこには一人の男が立っていた。


少年「なんでしょうか。」

男「俺を…覚えてないか?」

少年「・・・・・まさか。」

男「思いだしたか?」

少年「飛び降りるときにいた方ですね?」

男「そうだ。」

少年「でも、何でここに…!まさか!あなた…」

男「君を追いかけてきた。」

少年「そんな。でも、なんで?」

男「まあ、外で話すことじゃないだろう。中に入れてくれないか?マーシュ君よ。」

少年「なぜ、その名を?」

男「隣のおじさんから聞いたんだ。とにかく、邪魔するよ。」

少年「どうぞ。」


それから、少年と男は少し話した。


男「・・・・・とまあ、色々話したのはいいんだが、結局君はなぜ死のうとしたんだ?」

少年「先ほどから言っている通り生きていく気力がないのです。」

男「なぜ、気力を無くした?」

少年「そこまで話さなくてはいけませんか?」

男「君を追いかけてくるのは大変だったんだ。それくらい話してもらわないとな。」

少年「誰も、追いかけて。なんて、頼んでません。」

男「とにかく、あっちの世界から来たのは今のところ俺ら2人なんだから。仲良くやろうじゃないか。」


少年は、その時男にミーシャについては、話さなかった。


少年「わかりました。では、話しますね。僕は、両親がいません。僕が幼い時に死んでしまいました。交通事故です。その時両親に守られて生き残れたんです。ですが、周りの親戚は冷たい人ばかりでした。家は元々お金がなく遺産もほとんどなかったのです。だから、だれも引き取ろうとはしませんでした。それでも、1組の夫婦が僕を引き取ってくれました。ですが、その夫婦はその時の僕より、2さん歳上の息子がいました。その子の遊び相手にと引き取ってくれましたが、とても冷たくされました。そこにいた息子が僕が後から来たのに自分の両親に可愛がられてるのを憎み、僕をいじめました。わざと、僕が失敗するように仕向けるようになりました。それからというもの、その息子の両親もだんだんと僕が邪魔になってきました。それから、息子の両親に虐待をされるようになりました。そんなとき、息子に殺されかけました。後頭部を灰皿で思いっきりなぐられ、意識を失いました。息子がやったことに気付いた母親は、とにかく僕を病院へ連れて行き、転んだと嘘をついて入院させました。僕は病院でやっと平穏を手に入れました。そのときはもう、10歳でした。ですが、殴られた後遺症で僕は記憶を喪失してしまいました。もちろん、だれもお見舞いなんかには来てくれませんでした。その後、病院のほうでただ転んで灰皿が落ちただけではこんなにも深い木傷を残さないと、不審がり警察に伝えました。母親はすぐにあきらめました。その一家は、虐待・殺人未遂で逮捕されました。」


男「そうだったのか…だけど、記憶喪失でなぜその話を覚えている?」

少年「今の話は、全て息子の両親から聞きました。警察が、きちんと説明してくれるように言ってくれたんです。」

男「そうか。」

少年「その一家が逮捕された後、少し日がたってから警察が来ました。その時に、「君の戸籍も、君の母子手帳も何もなくなっている。」と言われました。僕が、この世に存在していると証明するものが、すべてなくなっていたんです。」

男「なぜだ?」


少年「僕を病院に連れていくときに交通事故にあったみたいで、事故で使い物にならなくなってしまったのが母子手帳。戸籍は、捕まった一家が消していたそうです。死んだと言って。他のものも全て一家によって消されていました。なぜそんなことをしたのかは、警察は教えてくれませんでした。それから、退院して僕は行くあてもなく、公園などで過ごしていました。それだけ、時間が余っていると余計なことを考えてしまいます。僕はなぜ生きているんだろう。僕が死んだらどうなるんだろう。死ぬって何だろう。魂って何だろう。もし自分が死んだらあの世というものに行くんだろうか。死ぬとはどういった感覚なんだろうか。それとも、死んだあとは無何だろうか。そんなようなことばかり考えているとすごく、もやもやとした気分になりました。そして、僕が死んでも悲しむ人はいない。僕が死んでも迷惑な人はいない。僕が生きていても喜ぶ人はいない。僕が生きていても助かる人はいない。そんな、自分は生きている意味があるのだろうか。生きているとはどういうことなんだろう。人のためになって初めて生きていると言えるんじゃないだろうか。ということは、僕は今すでに死んでいるんだろうか。体は生きていても存在が死んでいるんじゃないんだろうか。ずっと、そんなことを考えていました。」


男「そんなことを考えるのか…」


少年「それで、僕は死んでしまえば無。もしかしたら、今のこの記憶もなくなり新たな生命となって、生まれ変われるかもしれない。生きている証もなければ、意味もない。なら、死んでしまったほうがそんなことを考えなくて楽かもしれない。そう考えて、死のうとしたんです。それで、終わりです。」




少年の話を聞いて、男はただただ泣いた。

なぜ、こんなに涙が出るのか理由はわからない。だが、これは少年が飛び降りるその場にいた者にしか分からない何かがそうさせているのだった。




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