少年・少女 ~少女の謎~
~それから~
僕は、ずいぶんと寝たらしい。
起きた時には太陽が真上にまで来ていた。
起きたのはいいのだが、これから何をしようか。特に何もしなくていい。何もしたくない。
ここは、元々いた世界とは別の異世界。前の僕のことを知っている人など一人もいない。
だけど、生きる気力がない。生きたいとも思えない。
なにもせず、ただぼんやりとしていようか。
そのうちに、死んでしまうだろう。
少年はそう考えまた横になった。ただ、横になっているだけだ。
そのうちに、かすかにドアをたたく音が聞こえた。
気のせいだと思い、気に留めずそのまま動かずにいたらまたコンコンと聞こえる。
だんだんと音は強くなりずっと叩いている。
仕方がなく、少年はドアへ向かった。
僕がドアを開けたらそこには、あの少女がいた。
少女「こんにちは。いるなら早く開けてくれればいいのに。」
少年「ごめん…気付かなくて。」
少女「まあ、いいわ。それより、ご飯食べた?」
少年「いや。」
少女「駄目じゃない!ちゃんと食べなきゃ。」
少年「別にいいんだ。特におなかもすいていない。」
少女「空いてなくても食べなきゃだめ。」
少年は、ただただ不思議だった。
なぜ、見ず知らずの少女がこんなにも馴れ馴れしくして、自分のことを心配しているのか。
この少女は、”子供”なのか、”大人”なのか僕には区別できない。
少年「僕のことはほおっておいてよ。別に無理して気を使ったりしなくていいから。」
少女「別に、無理とかはしてないわ。ただ、心配なだけ。」
少年「僕のことが?全く知らない同士なのに?」
少女「・・・・・・・誰を心配しようが私の勝手でしょ。」
少年「・・・・・・・・」
僕たちは、少しの間沈黙していた。
沈黙を破ったのは少女のほうだった。
少女「ちょっと、付き合ってくれない?」
少年「え?」
僕が答える前に少女に引っ張られ僕は、外に出てしまっていた。
そのまま、引っ張られ続け着いた場所は、大きな木の場だった。
少年「どうして、ここに・・・?」
少女「あら。ここはもう来たの?」
少年「ああ、昨日ね。」
少女「そう。」
また、僕を引っ張り大きな木の裏側へと連れていく。
裏側まで引っ張ると、少女は一人で木の上へ登り始めた。
僕が、あっけにとられていると、
少女「なに、ぼけっとしてるの?早く来て。」
と、上から叫んでくる。
よく考えず、とにかく僕は、木に登り始めた。
半分まで登る前にすでに息は切れていた。
だが、少女は慣れた手つきでどんどん登っていく。
ようやく登り木のてっぺんに着いた。
少女はかなり前から頂上についている。
そこから見た景色は本当に素晴らしいものだった。
自分の魂だけが外に出て町の上を自由に飛び回っているようだった。
少女「解放されるでしょ?」
まさにその通りだった。
今までの、面倒くさい物事が全てどうでもよくなりまた、全てどうにかなるような気分になった。
少年「本当に、気持ちがいいよ。」
少女「でしょ。」
少女は得意げな顔で笑っている。
少女「私が、いやな気分になったらいつもここにいるの。登るのは大変だけど、すぐ慣れるわ。」
少年「君は、ミーシャだよね?」
少女「なんで私の名前を・・・?」
少年「君が、町に帰ってきたときに僕もそこにいたんだ。」
少女「そうなんだ。」
少女はなんだか、とてもうれしそうだった。
ミーシャの笑っている顔を見ていると自分もなんだか心が和んでくるような気がした。
それから・・・・・・・・・・・・
どうなったか知りたいか?きっと、少女との恋に落ちて少年は生きる希望を取り戻す・・・・・
とかなんとかって、ありきたりなものだと思ってしまわれては困る。
そんなことだったら、少年を追いかけてきた”男”が全く無駄な存在になってしまう。
それからの、少年・少女・男、はそれぞれに変わりだすのだ。
ただ一つ付け加えておくが、少女はこの時点ですでに少年に恋をしている。だが、その恋は実ることはない。
そのことから、先に話してしまおうか。
それから、少年と少女はときどき会う仲になった。
だが、会っても相変わらず少年の様子は変わらなかった。
少女がご飯を食べることを強く勧めなければ何日も平気で食べなかったし、自分から外に出ようとしなかった。ときどき、少女が少年を引っ張って木の上へ連れていくくらいだった。
少年は、なぜ少女がこんなにも自分を気遣ってくれるのかが不思議で仕方がなかった。
だが、聞くのもあまり気が進まなかった。
だけど、ある時彼女が家に来て意を決したように話しだした。
少女「今まで、どうして自分にこんなに気を使ってくるのかって、不思議だったでしょ?」
少年「ああ。」
少女「それはね、私があなたがいた元の世界にいたから…。」
少年「・・・・・どういう意味?」
少女「私はね、あなたと逆なの。私はこの世界からあっちの世界へいってしまったの。」
少年「そんな・・・」
少女「その時の私はまだ”子供”だったの。それで、あっちの世界へいってしまって、どうすることもできなかった。ただ、びっくりして、おろおろしてた。何をしていいのかもわからずその場に座り込んでた。そんなときに、老夫婦がやってきたの。「どうしたの?」って、とっても優しい声で聞いてくれた。私は、何も答えられなくてただただ泣いていたの。そうしたら、少しの間困っていたんだけど、「家にくるかい?」って聞いてくれて、おんぶしてくれたの。私は、お爺さんの背中で安心してしまったの。それで、寝てしまった。起きた時には、老夫婦の家のベットの上で寝ていた。目が覚めるとすぐに、お婆さんが来てくれていろいろ世話をしてくれた。それから、私はどうしていいのか全然わからなかったから、とにかくそこで生活していたの。私が、生長せずに、退化していってるのを驚かずにただ、見守ってくれていた。「あんたは、不思議な子だね。」とは、いったことがあったけど、それ以外は何も言わなかった。私が、一度赤ん坊の姿に戻って5歳になったころ、お婆さんもお爺さんも死んでしまった。その時は本当に悲しかったわ。涙がもうでなくなるんじゃないかってほど泣いたの。つらかった。それから、私は、戻るための方法を考えていたの。そんなときに、あるニュースを見た。とあるビルから、飛び降りた少年が消えた。っていうニュース。そのビルは、私がこっちの世界へ来てしまったときにいたビルだった。それで、場所を特定することはできたの。でも、そのビルから飛び降りるだけじゃだめだった。色々な人が、そのビルから飛び降りて少年の後を追おうとして命を落とした。それから、沢山調べて、観察してた。でも、決定的なことは何一つわからなかった。そんなときに、あなたが現れたの。」
少年「僕が?」
少女「そう。私が町の中を歩いていたら、前からとってもさみしそうな顔をして歩いてきたのがあなただった。まだ10歳の私に、声をかけてくれたの。「大丈夫?」って。」
少年「・・・・ごめん。覚えてない。」
少女「いいの。それでね、すっごく嬉しかったの。あなたは、私より貧しそうな感じだった。だけど、自分より幸せそうな人の心配をしてた。この人はすっごく優しい人なんだな。って、そう思ったの。それから、私はあなたを見つけるたびにこっそりついていってた。ストーカーって言われてもしょうがないことをしてたの。でもね、それだけあなたのことを見ていたかった。」
少年「全然気付かなかった。」
少女「ばれないように、努力していたからね。で、私はもどるための方法を調べることをおろそかにしてしまっていた。だけど、あなたがある日あのビルへ向かったの。だから、私はまさかって思ってついて行った。やっぱりあなたは飛び降りてしまった。その場に男性がいたから私は止めに行くことはできなかった。あなたが、飛び降りた後男性は柵を乗り越えんばかりの勢いで下を見た。それから、こうつぶやいたの「なぜだ」その言葉だけで何が起こったのか、私にはわかったの。それで、すぐに時計を見たの。11時00分ちょうどだった。飛び降りる人がいると毎回私は時間を調べていたの。それで、これだ。と思った。あなたは、きっとこの町にいると思って、なんだか安心した。死んでないんだって。」
少女はそこまで話すと、長い間続きを話してくれなかった。
僕は、彼女の話に聞き入っていた。
自分のことを、死んでほしくないと考えてくれていた人がいる。
意外だった。僕にとっては信じられないことだった。一人の少女が自分に好意を寄せてくれている。
少女は突然泣き出してしまった。
少年は、ただ見守ることしかできなかった。