手錠の付き合い
ずいぶんと昔になる。
皇帝陛下へ反逆を起こした王がいた。
一族郎党みな処刑されようとしていたが、4歳と2歳の兄妹は助けられた。
以来、俺が彼らの親となっている。
「ねえ、父さん」
兄が俺に話しかけてくる。
二人はもう14歳と12歳となった。
だが、俺の家から一歩も外へ出ることは許されず、この家の中だけで生活するようにという陛下からの命令だった。
俺は二人と両手で鎖でつながれている。
それは、もう10年も前からの鎖だ。
「なんだい」
息子や娘ができなかった俺にとって、二人は息子や娘だ。
だから、できる限りの願いはかなえてやりたい。
「父さん、外って、どんな感じの場所なのかな」
4メートルはある高さの壁の向こうをじっと見つめながら、兄が話しかけた。
「外は、怖いところさ」
いつものように答える。
それは、ある意味で事実であり、それと同時に空想であった。
兄は沈黙する。
これも、いつもの感じだ。
何を考えているか、魔法を使えばすぐにわかるが、俺はそれをすることはなかった。
兄の思考は、兄のものだからだ。
俺が二人とともに生活をはじめて10年、その間に、鎖は6回かけかえられた。
そのたびに、二人は自由となる。
とはいっても、牢の中に閉じ込められ、そこから出ることはかなわない。
それを妹は、さみしいと表現したことがある。
鎖があるから、彼らが生きていけるということを知っているようだ。
また、鎖があるから一人じゃないということも知っているかのようだ。
「ねえ、お父さん」
「なんだい」
牢の格子の前で、見張りを続けている俺に、妹が聞いた。
「一人って、さみしいのかな」
「どうしてそんなこと聞くんだい」
「だって、私のお父さんやお母さんは、この国の偉い人に殺されたんでしょ。でも、私にはお兄ちゃんがいる。でも、時々思うんだ。お兄ちゃんがいなかったら、私はどうなっていたんだろうって」
「きっと、俺と一緒さ」
俺は答えた。
兄は、眠っているようで、静かにしている。
「そうかな」
「そうさ」
それから、また沈黙が始まった。
皇帝陛下からの恩赦が出ない限り、この生活は続くだろう。
また、彼らが皇帝陛下へ反逆をしないと認められる限りでは、生きていくことができるだろう。
俺が死ぬまでは、きっと彼らは殺されることはない、それだけしか今はわからないが。
それでも、きっと彼らはたくましく生きていけると、俺はこの時に理解した。