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また、いつもと同じ夜が来る。
行為自体は乱暴そのものだ。ただ、慣れてしまえばどうということもない。およそ想像のつくようになった太さのモノが押し込まれれば、あとはものの数分で終わる『運動』だ。
「よかったよ」
事が終わって、隣で荒い息などをついてみせるこの男との関係も、意外と長くなったな、などと冷静に
考えながらも、そのもっと奥、脳裏のその先には、今まで感じたことのない思いが浮き沈みしている。
「そう」
特にそっけもなく言うと、ベッドから起き上がり、裸のまますぐにタバコに手を伸ばす。いつもと変わりはしない。まるで長いデジャブのような日々を過ごしているな、と苦笑したときには、紫煙の甘い香りが彼女の部屋に広がっていた。
そして、いつもと同じなら、背中越しの男は既に身支度を始めている。今夜もきっと同じだろう。衣擦れの音が続くのを、彼女は特に何も考えず聞いていた。
「じゃあ、また」
「あいあい」
背中を丸めてタバコをふかし、部屋を出て行く男に一瞥もくれず手だけを振る。一応『彼氏』と名乗っているものの、実際にはこの程度の関係でしかない男が、今度この部屋に来るのは、わたし以外に何人の女を抱いてからだろうか?
「……まったく」
玄関が閉まる音がやけに重々しい。二人いた人間が一人になるのだ、孤独感は避けられない。だが今夜のこの感覚はなんだろうか。孤独感と圧倒的な罪悪感。こんなことをしていていいのか、という自己嫌悪。とうに考えることを放棄していた感覚が次々に押し寄せる。それが雫となって頬を伝うほどになるとは、彼女本人すら思ってもみなかった。
「まったくねぇ……」
わかっているのだ。先ほどから、いや、この数週間自分の頭の中を浮んでは消え、消えてはまた浮びしている感覚がなんなのか。それをなんと呼ぶのか。そしてそれがいったい誰のせいなのか。鮮明に浮ぶ笑顔が余計に涙を誘う。今夜は煙草すら苦く感じる。アイツと同じ銘柄だからだろうか?
「いまさら、恋愛、なんてねぇ……」
バカバカしい。バカにしている。だいたい、自分がいまさらそんなことを望んでいいはずがない。望むにしては汚れすぎだ。今までも、今も、同じことを思っている。それでも押し隠せない。この思いはあまりにも強すぎる。
「まったく……」
ため息を、吐き出す紫煙でごまかすために吸う煙草に、伊東諒子はまた一本、火をともした。