肉食系女子のつぶやき。
シリーズにするかも、です。
あたしは自分が人からどう見えて、見られてるか知ってる。
誰だって外からは自分って見えないでしょ?
あなたは自分の声がどう人に聞こえているのか、笑顔がどんな印象をあたえるのか、可愛らしい小動物のような愛らしいイメージなのかそれとも女豹のような妖艶なしたたかなイメージなのか、理解して行動してる?
あたしが唇の先を少しだけ尖らせると困ったような表情になって、さらにもう少し尖らせると拗ねたような表情になって、そのまま口角をあげるとアヒル口になって・・・グロスを塗ると効果が何倍になるとか。
さらにはアイラインの引き方ひとつで顔の印象が変わっちゃうこととか、アルビノかと聞かれるくらいの色白だからチークの入れ方ひとつでオカメインコみたいになっちゃうこととか。可愛く首を傾ける角度だとか。
でも、そんなことは鏡を見ながら研究すればいいことで、あたしが今、絶賛考え中なのは気になる彼がどうしたらあたしを“ちゃんと”見てくれるかってこと。
“ちゃんと”っていうのは、容姿をってことだけじゃなくって、中身までってこと。そりゃぁ、いずれは服の中までちゃんと・・・ってオイオイ。まだ会話もできてないのに先走りすぎちゃった。
今、あたしの頭の中を占めている彼は、さっき正面のドアからひとりで入ってきた。今までも同じ講義にいたのかもしれないけど、なんだか目が離せない。彼が席を定め、腰かけた後も散々後ろから見つめる。
あたし、見た目は可憐な?女の子なんです。
お化粧だってナチュラルだし、つけまつげなんてしたことない。カラコンも未経験。マスカラはボリュームよりロング派だし、チークだってピンクとオレンジを混ぜてふんわりととっても自然に仕上げてる。グロスはピンクベージュばっかりだし。
ネイルはジェルで作り物だけど、長すぎずに淡い色でまとめて、ストーンよりも押し花だったり、ほっそーい筆で繊細な模様を描いてもらったり。
髪は色白の肌に合わせてキャラメルカラーにしてるけど、お手入れを欠かしたことはない。ゆるゆるに巻いたり、ふんわりクセづけたり。
服だって、カジュアルよりシフォンっぽかったりするやわらかい素材やワンピース、フレアスカートなんかのキレイ目が好き。
そんなあたしの見た目の良い評価。
すっごい女の子っぽい。
ふわふわしてる。
反対に悪い評価。
男の子のウケ狙ってる。
ナルシスト。
でもそれはいつも一緒にいる子達にも問題があると思うの。
合コン大好き!クラブ大好き!彼氏?人数ってヤッた奴も入れて?みたいな。
つまり結構な派手好き。メイクもはっきりくっきりバッチリだし、あたしの美脚を見ろ!ミニスカでソソるだろ!ピンヒール似合うだろ!デニムだってカッコよく履けちゃうよ!カジュアルなんて手抜きだろ!みたいな。カジュアルにするならヘアメイクやアクセに気を使いな!みたいな。肉食系女子の集まり。
類は友を呼ぶ。
その通り。先人の言葉は的を射てると思う。
しかし、あくまでも“類”であって同じではない。同じなのは“肉食系”のジャンルだけ。
合コンなんて知らない人とお酒飲んだって楽しくない。尚且つ、一回限りしか会わないような人に個人情報なんて流したくない。メアド交換なんてもっての外!どうしてもって散々頼まれた時にしか出たりしない。
クラブだって、ナンパが多いところには行きたくない。軽く見られてベタベタ触られて、飲みたくもないお酒を奢られたって不快極まりない。ただ音楽を楽しめて踊れるハコとか落ち着いて飲めるBLUE NOTEとかなら行きたいとは思う。
さらに女子高というプレミアムな響きからか、コンパとナンパとストーカーまがいの追い回しという死線を数えきれないくらい潜り抜け、結果的に守られたもの。
恋愛未経験ですが、何か?
ガツガツこられてキモい!
女子高で分からないと思われてたのか、浮気されてる子がいっぱいいたし。
ヤリ捨て、ヤリ逃げという単語を聞かない日はなかった。そんな中で誰が真剣に恋愛をしようと思うのか!
そんな流れで処女ですが、何か?
ほとんどの子が経験を積んでいく中、愛しいと思える人に出会えず、流されたりヤリ捨ては勘弁だと逃げ回った結果に守られた大切なあたしの膜。人間が洞穴を掘って住んでいたからあるステキな機能は未開通です。
やっぱりせっかく守ったからには愛しいと、全てを捧げたいと思う男にこそふさわしい!
そんな中で過ごしてきたあたしの高校時代。
ファーストフードでバイトしてナンパが多くて嫌で3か月で辞めました。
結局、近所のクリーニング屋でおばちゃん相手に受付してるのが性に合ってます。無駄にオシャレしてるけど。
チャライのは勘弁なんです。浮気は許せないから。
カッコいい人も苦手なんです。裏がありそうで。
自信満々で強引なナルシストも、頼りがいのある逞しい男も、優しさだけの優柔不断な男もイケてるメンズも苦手なんです。
それなりに勉強してきて、一般推薦枠で勝ち取った大学生活。
今日、たった今、あなたを見つけた。
170㎝に満たない身長で、華奢な躰。小さなお顔。
お耳が大き目でクセのある柔らかそうな短髪。
黒目勝ちのくりりんとした奥二重に、ぽってりとした唇。
全く男臭さを感じない。悪く言えば、少年っぽい頼りない感じ?
「あの子、好み」
つい、舌なめずりしちゃった。
「どれ?」
ひそひそと友人と指をさす。
教壇から2ブロック目の前から2列目、端から3番目に座ってる小柄な男の子。
髪にはカラーリングの跡もなく、窓から入る日差しが艶やかに天使のリングを作ってる。
「あの紺と緑のチェックのシャツの子」
「え、あれ?? うわ、地味」
「かわいいじゃん?」
「趣味、悪い。 絶対、童貞だよ?」
あたしは色素の薄い、よくカラコンを入れていると間違われる目を細める。
うん、彼の雰囲気最高にいい。
遠目でよく見えないけど、節の目立つ細い指もキュート。
「うわ、捕食者の目してる」
反対隣りの子があたしの本性をばらしてしまった。
あたしはその子を軽く睨む。
「いいじゃん?おいしそうなら、あたしがおいしく頂いてあげる」
「てか、あんた未開通じゃん?」
みんなしてうるさいなぁ。
「アンタたちのお蔭で、耳年増なの」
机と椅子の狭い間に立ち上がる。
講義が始まるまであと3分。今からが勝負。
「じゃ、また後でね」
その子に向かって歩きながら、薬指でグロスの残り具合を確かめて、警戒されないようにと少し拭った。
髪を確認するように少し、整えて。
口角は少しあげて、首は微妙に傾けて。
「ねぇ、今日、テキスト忘れちゃったんだけど、隣にいい?」
目元がやさしく見えるように和らげて微笑む。
ゆるゆるに巻いた髪が、傾けた顔側にふんわり落ちる。
「・・・え?」
こっちを見た彼のぽかんとした、丸い目が最高にかわいい。
「ついでに目も良くないから、ノートも見せてもらえると助かるんだけど」
畳み掛けるように、それでも強制にならないように、声のトーンを落として優しく言う。
「・・・え?」
「・・・いいかな?」
あくまで遠慮がちに、自然に瞳を伏せる。
戸惑った彼は、あたしを直視できないみたいで顔を伏せた。
「あ、どうぞ」
大きな耳が真っ赤で、本当にお猿さんみたいでかわいい。
「ありがとう」
あたしはとびきりやさしく、できるだけ女らしく微笑んで隣に腰掛ける。
わたわたとテキストをこっちに寄せてくれたり、筆記用具を用意している彼の服がシンプルだけどちゃんとしたブランド物だと気が付いた。シャツのインナーは清潔そうな白いTシャツだった。
ますますいい。ほんとうにあたし好みの彼だ。
現実的なあたしは一目惚れなんてしないと思っていたけど、セオリー通りにいかないみたい。
さて、彼をどうやって口説き落とそうか。
あたしは少し申し訳なさそうな表情をつくりながら、にんまりと心の中で笑った。