あなたの絵が好き
「私は歌手に、君はお絵かきさんになれますように! 約束ね―…」
―ピピピピ……ポチッ
小さいときに一度だけ会った男の子と約束した。
名前は忘れてしまったけど、私より小さくて、ふわふわのくせ毛が似合う絵の上手な男の子…
(またコメントしてくれてる!)
顔も年齢も非公開のシンガーソングライター“Haru” これが、前野泉水のもう一つの顔。家族と事務所の人以外知らず、友だちにも秘密にしている。
学校や外でHaruの話を聞くと気恥ずかしいし、友だちにもHaruの曲を聴いてくれている子がいて話題になるがその時は、「いい感じだよね~」と返事をするだけ。
そんなHaruのファンにはCloverという人がいて、いつも優しいあたたかいコメントをくれ、心の支えになっている。
CloverはHaruだけでなく、泉水としてもある意味で特別な存在。それは…
(―…いた)
同じ時間の電車に乗る、同じクラスの桜樹風月くん。
彼は美術部で、SNSでは“Clover”として描いた絵をアップしている。
彼がCloverということは今では学校で有名な話だが、私がそれを知ったのは高校1年生の時…
―
(どこか静かで集中できそうなところないかな…)
校内で一人になれる静かな場所を探していて、美術室の前を通った時、桜が見える窓際で桜樹くんが、楽しそうに絵を描いている姿を見て胸がトキメクのを感じた。
まるでアニメやドラマのワンシーンのようなあの光景は2年経った今でも色褪せることなく鮮明に思い出せる。
(あの時の顔が小さい時に会った男の子と似てるんだよな~)
そしてしばらくして、あの時描いていた絵がSNSにアップされているのを見つけてCloverが桜樹くんということを知り、彼のアップした絵に私もいいねとコメントをするようになった。
“spring”というアカウント名で。(名前が泉水=springだから…それでアーティスト名もHaruにしたんだけど…)
応援してくれているので気持ちを返したいという思いもあるが、単純に彼の描く優しい絵が好きだった。
それに彼は、コメントに返事をしてくれる。それが何より嬉しい。
電車と学校で彼を見るたび、SNSでのやりとりを思い出し胸がキュッとなることが増え、そこから彼を意識しはじめた…
こうして、学校でまったく話をしない彼とSNSを通して繋がっている。
彼は私が『Haru』であり『spring』だとは微塵も思っていないだろう…
学校で私の存在を認識しているかも怪しいが…




