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4.ナイフを持っていざ

「よっし」

 サバイバルナイフを握りしめ、膝立ちになりポップアップテントの窓からイノシシの様子を再度確かめた。

 イノシシはまだひっくり返って気絶している。

 窓から手を出しサバイバルナイフで……うん、イノシシまで余裕で届かんわ。投擲すれば届くけど、狙った場所にうまく当たったとしてもイノシシの毛皮を貫くことは難しい。

「行くしかないか」

 おっかなびっくり外に出て、イノシシににじり寄る。気絶しているこのチャンス生かさねば。

 首元に狙いをつけ、一息に振り下ろす。

 サク。

「え」

 何の抵抗もなく首元に突き刺さっただけじゃなく、首を抜け地面にまで至る勢いだった。

 イノシシは悲鳴もあげることなく、ガクリとなる。

「な、なんだこの切れ味……」

 ひょっとしたらイノシシの毛皮が豆腐のように柔らか……なんてことあるわけないよな。

「考えるのは後だ」

 せっかく得た肉をそのままにしておくなんて選択肢はないぜ。

 ええとポーチからアイテムを取り出せるんだったよな。

「ポーチはポップアップテントの中に置きっぱなしだった」

 緊急時も想定し、ポーチは腰につけっぱなしにすべきか悩みつつ、ポップアップテントの中へ戻る俺であった。

 

 ポップアップテントに戻りポーチを掴んだところで当たり前のことに気が付く。

 過去に興味本位で鶏を絞める体験会に参加したことはあるが、イノシシの解体となると勝手が違い過ぎる。

 どうしたものか。挑戦するだけ挑戦して……いや、綺麗に解体する必要もないんじゃ? 少なくともモモ肉くらいならうまくできるだろ。

 ポーチから水筒、手ぬぐいを取り出しリュックに詰める。

「他にも色々必要だな」

 ならばとポーチを腰に装着することした。ポップアップテントのすぐ外だから取りに戻ってもいいのだけどね。

 追加でクーラーボックスとチャック付きポリ袋もポーチから出して外に出る。

 

 イノシシの前にしゃがみ、サバイバルナイフの柄を掴んで引き抜く。思ったより大丈夫な自分に驚く。

 サバイバルナイフにはべったりと血がついていた。

 さっさと洗い流して綺麗にしよう。血を見て気分のいいものじゃないからさ。

 持ってきた水筒を左右に振る。ちゃぷちゃぷとした音が聞こえてこない。あれ、水筒の水は満タンに入れていたはずなんだけどな。

 水筒はで1.5リットルの水が入る。軍用を模したもので迷彩柄の丸いタイプのものだ。

「まじかよ……」

 水が入っていないことに不満の声を漏らしつつ、まだ納得いかない俺は蓋を開け、水筒をひっくり返した。

 すると、勢いよく水筒から水が出てくるではないか。

 何の抵抗もなくイノシシを貫いたサバイバルナイフ、水の音がせず空っぽのはずなのに水が出てくる水筒。

 確かに俺の手持ちのものであるはずなのに、常識外の力をもったチートアイテムに変化している。

 鈍い俺でもハッキリと理解したよ。俺がいる場所は別の世界のどこかだ。物語でよく出てくる言葉に言い換えると「異世界」ってやつさ。

 異世界だからチートアイテムがあってもおかしくない。ポップアップテントで謎のメニューが開けても、それが異世界での普通なのだ。

「よおし、よおし、よく分かった」

 イノシシを放置して「ヘルプ」を読みたいところだけど、血の臭いや肉が他の魔物を呼び寄せるかもしれない。何が起こってもおかしくない異世界なのだから。

 となると、慣れない解体をしている間も油断はならないんだよな。

 既に流れ出た血は火であぶるか土をかぶせる、とかすれば誤魔化せそうか。イノシシはポップアップテントの中へ……ん、まてよヘルプにクーラーボックスについて書いてあったな。

 俺が持っているクーラーボックスは三つある。全部車に積んでいたもので一番大きいのは超大型のもので底にコマがついている60リットルサイズのものだ。もう一つは小型の15リットルのもので、最後の一つが今持ってきている45リットルサイズになる。

 ここでヘルプを確認したいが、ポップアップテントの中じゃないとメニューを開くことができない。

 急ぎポップアップテントの中へ戻り、ヘルプのクーラーボックスの項目を読む。

「こいつはすげえ……」

 クーラーボックスは自動解体装置の機能を持っていた!

 まず前提として、クーラーボックスの中に素材を入れなきゃならない。

 たとえば……いや、習うより慣れろだ。

 

 イノシシの元に戻り、クーラーボックスを開ける。

 どう見ても45リットルのクーラーボックスには入らない。超大型のクーラーボックスならどうだろうか。腰に装着したウエストポーチに触れ、その場で超大型のクーラーボックスを出す。ついでに45リットルのクーラーボックスはポーチへ収納することに。

「お、重たすぎて持ちあがらない」

 大型犬サイズのイノシシとなると、持ち上げることなんてできようはずもなかった。二人いればいけそうだが、残念ながら俺一人である。

 クーラーボックスを横に倒してイノシシを押し込むようにすりゃいけるか。

「よっこいせええ」

 かがんで倒したクーラーボックスへイノシシを背中から押し込む。イノシシが入ったらクーラーボックスを立ててミッション完了である。

 しかし、頭も足も淵から出てしまっていて蓋を閉めることができない。

 仕方ないので、脚を切って、頭も落とす。イノシシの血があふれ出るも、全てクーラーボックスの中に入る。もっとも、切り離した部位を地面に置いたから後処理が必要なことに変わりはないが……。

 ようやくクーラーボックスの蓋を閉じることができ、ふうと一息つく。続いて、クーラーボックスに手を触れる。

『解体しますか?』

 突如脳内に声が響き、びくううっと肩が揺れる。なしてここだけ音声案内なんだよ!

 ……ヘルプに書いてあった気がする。急ぎ確認したから、そこまで意識していなかったよ。

 ええと、確か宙に浮かんだウィンドウ画面じゃないから、音声だったよな。

「解体する」

『皮と骨は残しますか?』

「必要無し、血も要らない」

『解体が完了しました』

「えらい早いな!」

 ゲーム的な機能なのだろうか。まるでデータを削除するかのように一瞬で解体が済んでしまったぞ。

 蓋を開けると中には何も入っていなかった。おお、説明の通りだ。

 続いて切り離した部位をクーラーボックスに入れ、解体を行った。

「よっし、後処理をしてポップアップテントに戻ろう」

 ポップアップテントに戻った俺はさっそく「ベースキャンプ」と唱え、メニューからアイテム一覧を確認する。

 おおし、アイテム一覧にイノシシの肉が部位ごとに表示されているぞ。

 これがクーラーボックスの機能となる。クーラーボックスの中に入れたものは瞬時に解体することができ、解体したものはパーツに分かれアイテム一覧に入るんだ。

 要らない部位……今回の場合は血とか皮については予め宣言することで消すこともできる。アイテムを消す機能についてはおそらくメニューにあるクリーンアップのところにあるんじゃないかな。

「いや、違った。アイテム一覧だ」

 アイテム一覧からイノシシの頭を選んだら、「クリーンアップ(ゴミ捨て)する」ってコマンドがあって、選ぶと「クリーンアップ(ゴミ捨て)しました」となってアイテム一覧からイノシシの頭が消えた。一方のメニューにあるクリーンアップの方にはクリーンアップ(ゴミ捨て)とクリーンアップポイントなるものがある。後で調べることにしようか。 

「いろいろあったが、なんとか難を逃れることができたなあ」

 奇跡的に取れた有給でキャンプを楽しんでいたはずが、朝起きたら異世界っぽいところにいた。

 とりあえず、ポップアップテントは安全だし、ポーチやくーらボックスといったとんでも能力もある。まずは、生きていくためにどうにかしなきゃ、だな! 

 こうして俺の謎ばかりの生活が始まったのである。

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