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3.メニューをどうぞ

「こいつはマズイ」

 イノシシの場合はガサガサとした音からまだいるかどうかも分からない「かもしれない」不安だったが、リュックの場合は「確実な」不安だ。

 強力な移動手段兼頑丈な身を護る術である軽自動車もなく、景色も変わっていた。となれば、携帯食糧や自炊などができるキャンプ用品は非常に心強い。

 しかし、それら入っていたリュックがないとなると……不安過ぎる状況に思わず叫んでしまう。叫んだ途端にイノシシが寝ていることを思い出し、慌てて口をふさぐ。

「ああ、ぐむう、ん?」

『メニュー

 アイテム一覧

 アイテム強化

 クリーンアップ

 ヘルプ』

 イノシシのことで頭から離れていたが、ずっとゲームのコマンドのようなウィンドウが表示されたままだった。

 そいつが視界の邪魔をして気が付くのが遅れたんだ。リュックがあった場所にポーチがあることに。

 ポーチには腰に巻くベルトのようなものがついている。ウエストポーチってやつだな。しゃれたこげ茶色の革製で、財布とスマートフォンを入れてもまだまだ余裕があるくらいで、文庫本くらいなら入りそう。今までの俺は使うとしたらショルダーバッグかリュックだった。ウエストポーチってのも邪魔にならず追加のポケット感覚で使えそうで良いかもしれない。

 ってそうじゃなくてだな、小さなウエストポーチじゃ、中に何か入っていたとしてもたかがしれている。ビスケットくらいなら入っているかもしれないけど……。

「情報量が多すぎるな。こういう時は……」

 すーはー、すーはー。

 深呼吸をして気持ちを落ち着け、目覚めてから次々に起こった出来事を整理する。

 そうすれば急いでやらなきゃならないことがみえてくるものだ。急がば回れってね。

 あぐらを組み、指で数字をつくり一つ一つ思い出しながら、やらなきゃならないことを洗い出して行く。

 急ぎ確認したいことはメニュー、ポーチ、イノシシの三つか。 

「一番の緊急はこれだな」

 視界を塞ぐメニューをそのまま放置してはいられない。この状況でよく窓から外を眺めようなんて思ったものだ。

 気が動転していたから仕方ないといえば仕方ないのだけど、我ながら情けない。

 ええと確か、コマンドのようなウィンドウ画面をスマートフォンの画面に見立てて指で操作するんだったか。

 名前が自動的に入った時の事を思い出し、人差し指でタッチする。

 選んだのは「ヘルプ」だった。

『ヘルプ

 操作方法

 ポップアップテント

 ポーチ

 クーラーボックス』

 お、ポーチについてもヘルプで確認することができるのか。メニューに表示されていた「アイテム一覧」とかは見て覚えろってことかな?

 まずは画面の操作をやってみよう。

「ほうほう、こうするのか」

 ヘルプの「操作方法」を参考に宙に浮かぶウィンドウ画面を操作していく。

 画面は指をスライドさせると右に左に動かせる様子。拡大縮小も可能で、その場合は両手を近づける、遠ざける。

 ふむふむ。透明度も変更できるようなので、向こう側が見えるが、文字が読み辛くならないくらいの透明度に変更した。

「ベースキャンプ 終了」

 と、声に出せばメニューが消える。もしくはパソコンのように画面右隅の「×マーク」をタッチしても消すことができるようだ。

 メニューの操作方法はだいたい理解した。

「よっし、んじゃ、もう一回、ベースキャンプ」

 消えたウィンドウ画面が再び出現する。今度はヘルプからポーチを選択だ。

 なになに。

『あなたの持ち込んだ道具が全て納められています』

 持ち込んだ道具が全て納められてるって、あんな小さいウエストポーチに俺のリュックの中身が入ってるってのか?

 信じられん……。

 ウエストポーチを手に取り、ボタンを外しペロンと開き手を突っ込む。

 何も無いぞ……。手を抜き、コンパ―トメント()を確認するも、すっからかんである。

 こんな時は視界の右手に寄せたヘルプの続きを読むべし。

 ええと、メニューの「アイテム一覧」でウエストポーチに入っているアイテムを確認することができて、取り出す時はモノの名前を念じればいいのか。

「コッヘル」

 するとなんということでしょう。ポーチから手を抜くとアルミ製の丸型の鍋――コッヘルがポーチの傍に出現し、ストンと地面に落ちる。

 念じれば出てくるのであれば、わざわざポーチに手を入れる必要はなく、床に置きポーチに触れて使った方がよさそうだ。

「ナイフ」

 鞘に入ったナイフが出たきた。こいつはランボーナイフと呼ばれる種類のもので、片刃で背側がギザギザになっている。

 一般的な呼び方だとサバイバルナイフになるのかな。

 サバイバルナイフはバランスの良いナイフで、調理だけじゃなく小枝を切ったりの用途でも使うことができるのが強みだ。

 アウトドアの定番だな、うん。

「リュック」

 出て来たのは確かに俺が使っていたリュックだった。カーキ色のアウトドア用のリュックで外にペットボトルを入れるホルダーがついている大型のものだ。

 開けてみたが、あれほど詰め込んでいた中身はなくなっていた。中に入ったいたものは「アイテム一覧」に記載されているので、それぞれ取り出す必要があるようだな。

 ある程度まとめて取り出しておいてリュックに詰めて持っておくのも良さそうだ。いちいち取り出しながら、あれ、この道具を取り出すのを忘れていた、ってことになりそうだからね。

 続いて、左手でポーチ、右手でコッヘルへ触れ宣言する。

「収納」

 すると、コッヘルが忽然と消失し、アイテム一覧の中に加わった。取り出しと収納、なんて便利な機能なんだろうか。 

 残す最後の課題であるイノシシの前にもう一つ急ぎ見たいヘルプの項目があったので、先にそちらから。

 それは、「ポップアップテント」という項目だ。

 ポップアップテントの中でベースキャンプと口に出して唱えればメニューが開く。このベースキャンプという言葉には意味があり、ポップアップテントの中はベースキャンプと呼ばれる空間になっているとのこと。そして、ベースキャンプと外を隔てるポップアップテントは堅牢でどれほど強い衝撃でもビクともしない。

 俄かには信じられないが、イノシシが体当たりしても平気だったのは事実である。ポーチもメニューも俺の常識が通用しない事象だったので、ポップアップテントも記載通り「外部からの干渉を完全にシャットアウトできる」ものと捉えてもよい……はず。妄信するのは危険だけど、少なくともイノシシの体当たりくらいなら耐えることができる。

「ポップアップテントの中にいれば安全か……」

 かといって、このまま外に出ないってわけにもいかないよな。食糧は僅かしかないし、水もペットボトルが二本のみである。

 とはいえ、残り一つの急ぎやりたいことであるイノシシが外でのさばっていては怖くて外に出ることができない。

 ぐうう。

 こんな時だってのに俺の腹は空腹を訴えた。

 突如見たことのない場所に転移し、不思議なベースキャンプ機能やらウエストポーチやらで俺のキャパは既にオーバーフローしている。

 だが、人間、生きていれば腹が減るんだな。

 改めて状況を整理しよう。ポップアップテントの中は安全地帯。どのような攻撃も受け付けない。

 外にはイノシシがポップアップテントにぶつかった衝撃で気絶している。

 そして、俺は腹ペコだ。

 ここから導き出される答えは――いち早く外の安全を確保して食事をとる。

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